[コメント] ビデオドローム(1983/カナダ)
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今や一級監督として数々の映画賞の常連となったクローネンバーグ監督だが、初期に作った監督作は、そのすべてがカルト作と呼ばれるものばかりで、特にホラー映画に関しては、作風の信奉者も数多く存在する。クローネンバーグの作る作品はホラーとカテゴライズされるものが多いが、むしろ低予算特撮と言った風情。一般人にも分かるようなきちんとした作品を作るようになった現在とは隔世の感がある。
しかし、私に言わせれば、監督の作る作品は全然変わってない。初期のころからクローネンバーグは物質的なものよりも精神的なものを徹底して撮り続けているし、悪夢的世界の中から物語を紡ごうとしている姿勢は一切変化したとは思ってない。この世界に入り込むには一種の背徳感と覚悟を必要とするし、観ている間は三半規管が警告を発し、終わっても酔ったような気分になってなかなか現実世界に戻ることができない。と、悪夢映画好きにとって至福の時間が得られる。私にとって、もっとも貴重な映像作家の一人だ。
それで本作は監督の初期のころのカルト作と言われるが、それはよく理解できる。何せ何度観ても話がわからないのだ。大まかな物語は分かるとしても、話に整合性はないし、いったいなぜ主人公はそういう考えに至ったのか、過程を一切無視しているので、行動様式が理解できない。しかも一応本作はホラーと言うことになっているが、実際の話、内容で怖がらせようとしている演出は一切ない。その代わりグロテスク描写はてんこ盛りで出てくるので、一見ただ気持ちが悪いだけに思えてしまう。
しかし、少なくとも、観るべき人間にとって、本作はたまらない魅力を持った作品には違いない。
さて、それで本作の魅力とは何だろう?
クローネンバーグ作品に共通しているのは、ある意味で心理的なレイプ作品と言ってもいいだろう。自分が嫌悪しきっているものに肉体が侵食され、それを快感として受け取ってしまう自分の身体。おぞましい快感をとめどなく与えられ、やがて精神がそれに屈して受け入れていく。受け入れたら受け入れたで確実な地獄が待っているのだが、それでもそうせざるを得ないという人間の精神状態というものを描こうとしているかのように思える。すべての作品においてその傾向は見られるが、本作には特にそれが強く感じる。だから、内容はぐちゃぐちゃドロドロのホラー作品にも関わらず、まるで怖さを感じない。“変態的なホラー”作品ではなく、倒錯的な快感を描いた“変態的なポルノ”もしくは“単なる変態”作品なのではないかと思える。
本作に限ってのことではないが、本作の描写による変態性は、機械と人間が融合するところにあるかと思われる。本作の主人公ウッズはビデオドロームを観続けることで脳に腫瘍ができると説明されているが、それによって何が起こったかと言うと、ビデオデッキやコルトと体がくっついてしまう(と言うより完全融合で、機械としての機能を完全に保持しつつ、全部肉に置き換わってる)。ましてやテレビ画面とキスしてるうちに顔がめり込んでしまうとか、機械とくっついてしまう描写が特に多く、機械によって体や精神が侵されていくという、相当に変態的でフェティシズムな作品であるということになる。
機械と人間がくっつくことを性的快感として考えるなんてことは、普通考え付かないだろうけど、たとえば塚本晋也監督の『鉄男 TETSUO』(1989)なんかに観られるように、そう言ったフェティな人間だって世の中には存在するのだ…少なくともこんな作品を“ポルノ”として観てしまう人間がここに一人はいるわけだから。
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