[コメント] クローネンバーグの デッドゾーン(1983/米)
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一発の銃弾が一滴の涙に変わる時、彼ジョニーの背中に食い込んだ重荷を縛った紐が解かれる。銃弾という冷たい氷が彼の情熱で溶かされ涙となった。情熱はサラへの想いが全てであり、彼全てだった。そして一滴の涙は、やがて大河となって世界を潤す。「独り独りの創る流れが、世界を変えて、壊して、新しい次の時代の何かを創っていくのだ」と映画が語りかけてくるかのよう。
民衆の代弁者でもあるテロリストが、銀行や信金に押し入って「偉い方を出せ!」と発する男が、ただただ無条件に悪党とされる時代。全くその背景にあることを知らないし、何もその人物の日常について知らない、一度も会ったことがない人でもメディアが決めたら即その瞬間から悪者にされる時代。
その時代の居心地の悪さを、絶妙なタッチで、そして腐らない絵筆と絵の具でスクリーンに描いた、スティーブンキングとクローネンバーグの功績は大きい。ウォーケンの鋭い眼差しに託されたメッセージの膨大な量に、ただただ圧倒されるばかりであったが、会ったこともないのだけれど、素晴らしい人間像を創りあげる俳優魂は賞賛しなければ馬鹿だ。彼らは素晴らしい仕事を成し遂げた。
人の手を掴み温かさを感じるということ、それつまり、合理化社会の無人社会に於ける温かい銃弾であり、銃弾を溶かすのは我々の情熱なのだろう。彼の能力は決して特別なことではなく、当たり前の能力なのだから、目を見て相手に触れることの大切さを一生忘れてはいけないと、強く強く心に刻みつけた。
2002/4/30
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