トロイ戦争を知っている人には、かなり異端に見える作品。神様ではなく人間の戦いとして表現されているし、アキレスのカカト、トロイの木馬などのいわゆる見せ場が作中ではそれほど大きい意味を持たず、味付け程度の位置づけになっている。これはかなり珍しい。

そして普通はこの話、アキレスとパリスの話にすると思うのだが、なぜかヘクトールが見事準主役として大活躍している。こういう作りの作品にしたかという驚きが大きかった。

特に中盤、復讐に燃えるアキレスが城門を前に「ヘクトール！」と呼び出すシーンは秀逸。誰もが俺の名前は知っている、誰もが俺の用件も知っている、という自身に満ちたアキレスの前に、臆すことなく出てくる（そして負けるに決まっている）ヘクトールはとても格好いい。

作品を焼直すときには再解釈が必要。なるほどこういうふうに考え直したのかという部分がなければ新しい客はつかめない。この『トロイ』は少なくともそういう点では成功しているので、僕の評価は高い。

ただし、一般的な映画の質という意味では凡作レベルだろう。ＣＧは見事だがこの映画を超える作品はいくらでもある。戦争シーンや男たちのドラマを楽しみたければ、『パイレーツ・オブ・カリビアン』や『３００』のほうがずーっと面白い。