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[コメント] 茶の味(2003/日)

この映画には社会や世間が存在しない。教師たちの話に意味はなく、家族間のコミュニケーションすらおざなりに扱われる。そこにあるのは、あくまでも最小単位の個人と、その個人がダイレクトに宇宙、すなわち個人が存在する空間とつながるさまがあるだけだ。
ぽんしゅう

この、春から夏にいたる一家の小さな成長物語がピュアな清々しさを放つのは、そこに家族や学校、職場や地域社会といった人間が形成する世間という中間単位での葛藤が一切描かれていないからだろう。

小津安二郎の作品群をはっきりと意識したであろうこの石井克人の「茶の味」は、小津が終始家族とその周りの小さな世間との関係の機微から人間の普遍を見つめようとしたのに対し、世間や社会という言わば半端な存在を中抜きして、個人と宇宙をダイレクトに結んでしまうという全く逆のアプローチで小津のそれに迫ろうとしている。

その潔さがこの作品の魅力であり、ヴィム・ヴェンダースの『東京画』やアッバス・キアロスタミの『5 five 小津安二郎に捧げる』といった頭でっかちなオマージュ映画が到達することのできない日本人特有の自然観であり生死観だと思う。

石井克人。この人、すごい人かも知れない。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)町田[*] 水那岐[*]

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