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[コメント] ハウルの動く城(2004/日)

“大いなる意志”をぶち破れ! 楽観主義、まことに結構。小さな小さな物語に託された、強き希望の物語。
にくじゃが

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







「王様と相談してこの戦争を終わらせましょう。」 王室付き魔法使いサリマンは言った。彼女にはその力がある。ではなぜ、今までそれをやらなかったのか? あえて戦争を続けていたい理由があったのではないか。

 ソフィー達が住むあの国、あの国では戦争が行われていた。どこの国とどういう理由で戦争をしているかはわからない。だが、町には兵隊が溢れ、国旗がはためき、人々は大挙して行進や軍船を見送る。あの国では、ただいま“愛国心”が横行中。“愛国心”という言葉のもとに、人々はひとつにまとまる。それが戦時というものだ。

 サリマンはこの“愛国心”でもって国をまとめたかったのではないか。“愛国心”でもって普段はバラバラの心はひとつの意志のもとに動く。ひとつの意志、国の命令、国王の命令、サリマンの命令の下に。あの戦争はサリマンが国をまとめるためにでっち上げた戦争なのではないか。だからこそ、どこの国と何のために戦っているのかもわからないほどに、戦争の描写がおざなりだったのではないか。そう、こんな戦争、意味ないのだ。だから“バカげた”戦争なのだ。

 サリマンが象徴しているもの、それは“全体主義”ではないか。混じろうとしない異質なもの、それは全体の調和を乱す。だから彼女は、自分のために魔法を使うハウルを糾弾し、荒れ地の魔女を処罰したのだ。大いなる力を持ち、大いなる意志で人間を導くサリマンは、人間を信用していない。だから、自分で国を動かすのだ。

 ソフィーは生活力のある自立した少女である。彼女は妹の生活も、母親の生活も、戦争も、老人化した自分ですら“受け入れている”。他人と関わりを持とうとしなければ、ばあさんになったって、自分が落ち着きさえすればいい。ソフィーは自分以外のことには関心を示そうとしない、自己の中で完結している少女である。

 ハウルは自由な男である。自分の持つ力を好きなように使い、好きなところに移動する。彼は大いなる力を持っている。自由である、何でもしていいのだが、何をしていいかわからない。彼は夜な夜な自分を傷つける。自分の力をもてあましているかのように。

 彼らは、形は違えども、自分のことだけ考えている。彼らは、サリマンが潰してしまいたかった全体に混じらない異質なもの、個人主義に他ならない。個人が個人の満足だけを考えているのは悪いこともあるのだろう。荒れ地の魔女は、たしかに自分の楽しみのために好き放題に呪いをかけたのだろう。 でも、もしも個人の幸福が他人の幸福とつながっていたら? わたしが幸せになるためには、あのひとにも幸せになってもらいたい。あの人のために、わたしにできることはなに? だれかを思いやる心、これは個人主義にだって芽生えるんだ。これを手っ取り早く描くにはやっぱり愛を持ち出すのが一番だ。あのカブのように報われないこともあるけどね。

 ソフィーは、思わずカルシファーに水をぶっかけてしまう。彼女の行動は行き当たりばったりだ。荒れ地の魔女は、みんながハウルを助けるために動いている時に心臓がどうのこうのとわがままを言う。彼らにはチームとしてのまとまりもない。彼らはサリマンのように大局的な視点を持っていない。大いなる意志のもとでひとつにまとまって行動することもない。しかし最後はハッピーエンド。すべては落ち着くんだ。どんなに時間がかかってしまっても。

 この映画は、恋愛という個人レベルの小さな小さな物語が成就することを見届けた大いなる意志の主が、全体主義の核になっている戦争を止めようとするところで終わる。小さな小さな物語、小さな小さな世界が幸福で満たされることによって、大きな世界だって変わり得る。人間は、大いなる意志のもとになくたって、自分たちの力で、幸福にたどり着けるんだ。そう、ソフィーが自分の力で呪いを打ち破ったように。何たる楽観主義、高らかな人間賛歌。よろこばしきかな、このさいわい、ハレルヤ! ハレルヤ!

 ここまで書いて思い出したことがある。ハウルがソフィーに飛行機の操縦を託し、自分が囮になっていくシーンで、ハウルの「じゃあね」っていうかんじの挨拶の仕方、あれ、『風の谷のナウシカ』にそっくりなシーンがあった。そこで何となく浮かんでしまった。この映画は、漫画版『ナウシカ』の映画化できなかった後半部分、旧世界の主とナウシカの戦いを描いたものじゃないかって。 …だとすると、カブの王子はクシャナみたいな位置の人間なのかもしれん。

(評価:★4)

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