[コメント] 青い凧(1993/中国)
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まだ鉄頭の父親の小竜が健在だった束の間の幸福な一時に父子は“青い凧”を空に揚げた。“青い凧”はあの一家の、あの家族、そしてなにより幸福の象徴。
寡黙な語り口は「盗馬賊」などでもティエン・チュアンチュアンが用いてた。 この監督は声高に訴えず、ひたすら描きたいことを描いて、描写や物語そのものにじわじわとしかし根強く訴えさせるのが得意らしい。登場人物の口に藉口して主義主張を訴えるような直截的で単純だが時に最も感動的ですらある手段に安易に依拠したりしないようだ。検閲の厳しい共産党政権下で延命するための自己防衛かそうさせるのか?
コメントされいる方々は間違っているのだが、反右派闘争は文革以前の出来事。この映画の主要人物で“文革”によって死んだ(要するに紅衛兵などの暴行や下放による過労死など)人物はいなかったと思うのだが。三番目の役人の父親は造反派の吊るし上げを食らうが、心臓病で死んだと語られていたような気がする。もちろん吊し上げがなければ心臓が悪化することもなかったと思うが。
この一家の不幸は共産党の延安時代に長姉の新郎が死んだことから始まってる。この筋金入りの党員は後に文革で造反派に吊し上げられるのだが。次に長男の樹生。 彼の失明は政治権力と関係あると観るのは穿ちすぎだろうが、彼の婚約者が高級党員の性的な誘いを拒否して反革命罪で監獄行き。次男の樹岩は百家争鳴に引っ掛かり反右派闘争で労働改造。さて、樹娟の最初の旦那の小竜は反右派闘争で国東に密告されて労働改造で地方に行き樹木の下敷きになって死亡。次の旦那は密告した呵責に苦しみつつ肝臓病で病死。三番目の旦那は高級役人だが、文革で紅衛兵に暴行を喰らい、それを救おうとした樹娟も殴られ、それを救おうとした鉄頭も殴られ、 空には樹に引っ掛かってボロボロになった“青い凧”が浮かんでいるのだ。こうなると一家の名前に樹がつくのも意味ありげに思えてくる。
母と子の物語を軸にして展開するし、観客の目もそちらに向かう。しかしその物語に偽装された“青い凧”の物語がじわじわ滲み出てくるのだ。幸福な一家から一人また一人親戚や友人が欠けていき、ボロボロにって行く過程と樹に引っ掛かった“青い凧”がボロボロになった過程は軌を一にしている。共産党を批判したものというより、ただ静かに暮らしたい庶民を暴力的に翻弄する余りにも恣意的な政治権力を批判しているのだろう。しかしそういった偽装も普遍的なテーマも共産党当局から見れば己に対する痛烈な批判にしか見えないかもしれないが。ティエン・チュアンチュアンの新作がお目見えしてないのもそのあたりの影響だろうか……
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