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[コメント] ショーン・オブ・ザ・デッド(2004/英)

ちゃんとツボも押さえて良くできている。最後まで面白く観られた。何より作り手の誠実さが伝わってくるのがいい。が、思えばリーマンショックは愚か、スマホもSNSもない頃の話。
おーい粗茶

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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スマホやSNSというインフラや風俗がないからもう古臭いと、アニメサザエさんを批判するようなことを言いたいのではない。言いたいのは、あんな世界の終末のような事件が起こったけど、相変わらず僕らのダメでゆるい日常は続いていく、とばかりに、この作品の通底にあるのが「しょぼくれ庶民の生活賛歌」に落とされていくところだ。つまり「閉塞感」が「快」として認識されていた。これがもう今は古いなあと思う。「僕らのダメな日常」がポジティブな共感を持ってとらえられていたこの時代、その当のダメな僕らってまだ余裕があったんだと思う。失業率は高くてもまだ「世の中」は磐石と思えてたし、まだ黎明期のインターネットは、庶民の主体同士が自由に民主的につながっていく新しい庶民のための世界への希望があった頃だろう。つまり庶民にまだパワーがあった頃の作品だから、「されど愛すべきダメな日常」なんていうところに物語が収斂していくのだなあ、と思う。

リーマンショック以来、国家は「大きく影響力のある」ものの保護を最優先し、結果として「小さくて影響力のない」庶民単体は切り捨てられる傾向が持続中だし、自由でわれわれのものだったインターネットは、GAFAの支配下に置かれてしまい、もはや庶民はデータ搾取の資源でしかない。この15年で格段に格差が広まった世界で望むことは、僕らのダメな日常がまた帰ってくることではなく、この事件をきっかけに世の中がガラっと変わることでしょう。「ゾンビ」がバラエティ番組で「キャラ」として収まっていく場面なんて、頭では笑いとして理解できるけど、実感的には不快でしかなかった。「ゾンビ」という異物が「世の中」という大きなものに飲み込まれていく結末が不愉快なのだった。そんなふうに思う自分の感覚にもちょっと驚いたのですが。

ともあれ、この作品には何の罪も瑕疵もないんだけど。

(評価:★3)

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