[コメント] フリック(2004/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
家具の少ない白い部屋。風になびくカーテンと風鈴の音。村田(香川)の記憶は、映像と音声それぞれ一点に凝縮され、その記憶と真相は、酒浸りの生活や長年の刑事経験も絡んで、実在と架空の点と線を結ぶ「妄想」として肉付けされる。
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交錯する時間軸とスクロールする画面。町外れの小洒落たバーと雇われ店主の伸子(大塚)。村田は思う。伸子には以前海で会っていた記憶がある。いや、バーに入ってからカウンターでそのように妄想したのかもしれない。
2度目に訪れた時、村田の持つグラスがショットグラスからビアグラスに変わるカットがある。店を出るとき、村田は1000円札一枚で帰ろうとしたのは、ウィスキーをボトルで飲んだつもりは無く、ビール2杯ぐらいのつもりだったのだろう。 飲みながら、自ら飲む姿、妄想する姿までをも妄想する村田。泥酔状態の記憶、妄想の多重構造を巧みに演出したワンシーンだ。
3度目の訪問だっただろうか。村田は妻殺害の現場にいち早く駆けつけたのは不自然だ、と後輩・滑川(田辺)を疑う。滑川は「疑われるのは不愉快」と先にバーを出るが、村田はその滑川に更なる妄想を抱く。妄想は、美知子殺害現場を撮影した動画を見る滑川、黒幕・佐伯の甲高い笑い声、そして、終には“あの”カーテンの向こうに潜む滑川へとたどり着く。 それは、妻を殺害されてから求め続けていた真相(と納得できるもの)のはずであった・・・
店を出たところで、チンピラにノックアウトされたのだろうか、チンピラも妄想だったのだろうか、村田は地面に倒れ臥した。 拳銃を奪われ悪用される後の妄想の布石を泥酔の中に見ていたのかもしれない。
伸子の部屋。片隅のオレンジの椅子とスポットライト。ライフル・・・ 村田の妄想は肥大化し、それまで村田の妄想から超然としていた伸子までも登場させる。 伸子は売春組織の元締めなのか? 佐伯の女なのか? −−− 村田の拳銃で佐伯に射殺される宿の主人、始末される滑川。
宿に戻る。「!」 殺されたはずの宿の主人は生きていた。妄想の筋書きがほころび始めた瞬間だ。連れ去られた佐伯の車中で、滑川の次に撃たれる立場になった村田は「何もかも出鱈目」とばかりに居直っていた。撃たれる及川。そこで、伸子の登場。銃声・・・
本当の朝。 滑川との和解。それは現実との和解を意味していたのだろう。朝食を食べる村田は晴れやかな表情となる。(この表情の涼しさといったらどうだろうか!暗闇を経験したものにしか出せない味わいがある。) そして、伸子の受諾。デートの行き先は(妄想で伸子と出会った)海ではなく映画館。ただの一度も映画を観たことがないと言ってきた村田は映画好きだったのだ。 村田自身の真実をも見えてくる。
そしてラスト。再びあの道と伸子の銃声。伸子が救ってくれた!! この妄想はそれまでの執り付かれた妄想とは異なる、自分の意思で思い描いた妄想と言えるだろう。
結局、誰が実在したのか、どこまでが真実だったのかわからない部分が多々残るが、これは錯乱した香川の視点から描かれているに他ならないからだろう。
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