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[コメント] 死滅の谷(1921/独)

ラングの表現主義映画かあ。と構えながら見はじめると、サイレント時代の「名画」と云われても不思議ではない普遍的な端正さを示す画面に却って驚く。だがそれは冒頭だけ。死神ベルンハルト・ゲッケの登場あたりから徐々に陰惨なムードが漂い出し、唐突に「壁」が出現するに至って私は確信する。「傑作だ!」
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**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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美術の突出のみでも映画はここまでの高みに達することができるのだという驚き。むろんこれが「美術だけ」の映画であるわけはないのだが、「壁」やヴェネツィア・パートの「階段」、中国パートの「橋」をはじめとした美術装置が生み出す画面のテンションはやはり比類ない。

導入部となる現代パート、バグダッド・パート、ヴェネツィア・パート、どれもすばらしいが、中でもひたすら徹底して無茶苦茶が行われる中国パートが傑出している。また、「愛」と「死」のテーマを前景化させつつ人間のエゴイズムにまで切り込んだ結末部の凄味も特記しておくべきだろう(煙! 炎!)。

原始的なトリック撮影も精度の高さゆえ現代でも通用するものとなっている。とりわけ死者の行進が迫ってくるカットは完璧だ。だが、それはあくまでも稜線が幾重にも重なった構図が完璧だからであり、たとえ技術の水準が高くともラングは決してトリック撮影だけに頼った画面作りをしてはいない。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)ぽんしゅう[*]

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