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[コメント] 羅生門(1950/日)

この作品が示した技術と構造は素晴らしいのかもしれないが、ダイナミックな演出の前に繊細な感情の機微が打ち消されてしまっている。男女三人の関係性を描いている作品なだけに余計そう感じる。
グラント・リー・バッファロー

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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コロンブスのアメリカ大陸発見の日が、アメリカ大陸に元から住んでいたネイティブにとってはヨーロッパ人による侵略の開始日であったことが周知の事実になった今日、各国の戦争報道など相対主義的な価値観にすっかり慣れてしまった今日の人間が観ると、そりゃ自分に都合のよい証言ばかりを繰り返すのは当たり前だろと思ってしまう。あと、いくらその場での人間の感情や動きに食い違いがあったとしても、結局森雅之三船敏郎に殺され、京マチ子は未亡人となり、あの赤子は父親を失ってしまったという現実に変化がないだけに(さらに言うなら各自の登場人物に感情移入しにくい作りをしているだけに)いまいち入っていけない。

さらに蛇足を言うなら、相対主義に慣れきった「ジェネレーションX」以降の世代というのは、繋がっていたはずの何か、信じていたはずのその何かが、そもそも何であったかすら忘却してしまったところにその特徴があるのかと思う。正直、志村喬にしろ千秋実にしろゴロツキを演じた上田吉二郎にしろ(彼も「全部嘘だ」と興奮しているあたり)、どうしてそこまで真剣に悩むのかが理解できなかった。むしろあのラストでようやく物語が動き出したような気がした。

(評価:★3)

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