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[コメント] 生きものの記録(1955/日)

黒澤作品には「人の上に立つ者の苦悩」を描いたものがいくつか存在する。滑稽極まりない狂人という「へりくだった」主人公は異色の存在であり「才人版生きる」とも言える。
Bunge

結局一家はブラジルに移住するのだろうか?まさか主人公の言う通り核の脅威がやってくるのだろうか?といった疑問から物語的にも膨らみの余地が感じられる。客が退屈しないよう慎重な配慮がなされており、地味な題材を精一杯面白く見せようと努力した「本気」の黒澤が見られる。強者と弱者の温度差を「七人の侍」では説教的視点で描いたのに対し、「ちょっと面白いから君たち見てくれないか」といった今作が失敗した影響は観念的・破滅的色合いの強い「乱」に及んでいる。戦後から一昔前までの主体性無き日本人にとって強者の弱さなどまるで興味が無く、求めるは全知全能の強者による説教を受けた事から生まれる安心感なのだ。

「金正日は間違った思想を持っているが、間違った枠組みの中で高度な思考をしている」-宮崎哲弥-

狂人の脳内が全くの無秩序とは限らないし、周囲との不調和を敏感に感じ取ることが出来る。この映画が何よりも深く描いているのは核の恐ろしさでも大衆の危機感の無さでもなく、推論の歯車が一つ壊れたがために孤独の闇に取り残されてしまった狂人そのものなのだ。

そこかしこに見られる虚飾の痕跡からすると「つまらなくはない風変わりな映画」として観られるのを目標として作られたように思える。「どうしても描きたいもの」をカラー以前の黒澤が撮った貴重な作品。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)寒山拾得[*] Orpheus 水那岐[*]

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