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[コメント] あおげば尊し(2005/日)

丹精込めた、端正な映像。だが、「お話」として丁寧に作り込まれすぎている嫌いがあるのが残念残念。
煽尼采

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







冒頭、タイトルが現れる直前の、遠足か何かの場面が印象に残っている。一人暗い所へ入っていった生徒に、先生が、もう行くから出ておいで、と声をかける。その声に、暗がりから姿を現す生徒を、スローモーションで見せる。これは、好奇心から暗い所に入ってしまった子供も、すぐに先生が声をかければ、そこから出てきて青空の下に顔を出してくれる、という、この映画のメッセージが込められていたのだと思う。興味本位で暗い所、つまり死を覗き込む子供たち。

また、この場面の前にちゃんと、テリー伊藤演じる先生と、生徒たちの間にある関係を、教室での何気ない光景を通して見せているのが良い。一緒に昼食をとりながら、生徒が「片目、どうしたの?」と‘興味本位’で訊ねた質問にも、淡々と、先生らしく答えるテリー伊藤。

だが、市川準監督独得の、その場の「雰囲気」、人の「息づかい」を、品位のある映像に定着させるスタイル、ただそれだけで描ききってほしかった、という点では残念。映画が「物語」として奇麗にまとまりすぎているせいで、何か作り物めいたものを感じさせるのが珠に瑕。

結局、「先生」的存在から何を言われたかとか、顔や名前が記憶に残るのではなく、その人の佇まい、体温だけが記憶のどこかに残るものなのだ。言葉の意味よりも、声の感触。だから、暗がりの生徒を呼ぶ先生の声に始まって、死の暗がりにある先生を呼ぶ生徒の声、合唱でこの映画は締めくくられる。この合唱が為されるタイミングが、話がうますぎる印象を与えるのが惜しい。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)ぽんしゅう[*]

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