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[コメント] エリ・エリ・レマ・サバクタニ(2005/日)

映像が視覚を、ノイズが聴覚を刺激し、映画は「瞬間性」を描く。野心に満ち溢れた創作芸術であり、現在の邦画においても、こういった実験は必要であろう。(2006.07.30.)
Keita

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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 音楽。音楽とは、すごく瞬間的なものだ。音楽は、触覚的に手に取ることできず、視覚的に見ることもできない。耳で聴いて、「いいなぁ、この音」と思ったその瞬間の記憶が、印象として心に残っていくだけだ。

それをこの映画では、人間の生死に置き換える。生きていることはある意味では実感のないことかもしれない。しかし、生きているというその瞬間は、誰かの内に記憶されていき、たとえ死を迎えても誰かの心に記憶として残り続ける。「生きるということに無駄はない、生きる気持ちを持ち続けろ」というポジティブな思いを、僕はこの映画から感じた。

舞い落ちる雪も音と同様、瞬間的な存在。だが、その美しさは印象に残る。「瞬間」の重要性を描いていたこと。それが興味深かった。

 また、青山真治をはじめ、出演している中原昌也もメイキングを撮った阿部和重もそうだが、彼ら3人のような野心的なクリエイターが世に送り出す独創的な作品は非常に刺激的だ。

この映画において、音楽として劇中で使用されるのはノイズ・ミュージック。台詞でも登場するように、裏を返せば喧しいだけの音楽だが、メロディアスなロックではなく攻撃的なノイズで感覚を刺激してくれるところが良い。浅野忠信のライブシーンは、劇場で大音量で観たら、もっと陶酔度が高かっただろう。

ある意味では観客を突き放す表現方法。娯楽としての映画で邦画が盛り上がる一方、こういった創作芸術としての映画を邦画で作っていく必要性も、僕はすごく感じている。カンヌ映画祭で褒められたり、オシャレ感覚で観に行って眠気に襲われたり、実験性ゆえに賛否が割れたり、いろいろな評価があって…。それで良い作品である。僕は感覚を刺激された。

(評価:★4)

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