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[コメント] かもめ食堂(2005/日)

端正な構図を求める特徴はよく感得できる。それは街並みや波止場などを背景とする画面や食堂の佇まいもそうだが、厨房の小林聡美の正面ショットが良くそれを感じさせる。あるいは自宅で合気道の膝行(しっこう)をする際の正面ショットなど。
ゑぎ

 本作のちょっと普通よりもゆったりとした、というか、ちょっとズレたリズム−時間の描き方、所作科白や編集の間は、むろんカウリスマキにも影響されているのだと思わせられるが(『過去のない男』の主演者−マルック・ペルトラが出ているし)、いや何よりも3人の主要人物の性格付け(キャスティングも大きいが)に拠っているだろう。

 主人公の小林の過去はほゞ分からないし(痩せた母と武道家の父の話は冒頭ナレーションで出て来るが)、特に、彼女に劇的なことが起こるプロットが用意されているわけでもない。自己の確立している女性が異国で逞しく生きる、その姿が淡々と綴られているだけと云ってもいい。例えば、食堂にお客さんが来ても来なくても、大げさに一喜一憂することもない。この辺りが本作の一番の良いところであり、人によっては物足りなさを感じる部分かも知れない。

 こゝに片桐はいりが投入され、彼女の生硬な人当たり、コミュニケーションのぎこちない雰囲気がオフビートを作り出す。さらに、もたいまさこが加わって、小林とはまた異なる泰然としたキャラ造型で(さらに悠然というか)、オフビート感を増幅するのだ。

 ただし、丑の刻参りや、もたいのトランクの中身がすり替わっている部分なんかは、ノイジーにも感じる。ニャロメとガッチャマンの歌も、ツカミとしては悪くないのかも知れないが、あざとい作劇とも思った。

 あと、食堂の通りに面した大きな(一面の)窓が、店舗内外を異空間として際立たせる良い装置になっている。窓外の舗道で立ち止まり、店の中を見る人たち(3人の女性たち、睨みつけるように見る1人の女性、その他主要人物たち含めて)のショットを無数に繰り返すが演出がいい。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)緑雨[*]

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