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[コメント] 青春の夢いまいづこ(1932/日)

学生喜劇というジャンルに由来する必然性は当然あるとしても、やはり応援団の練習やカンニングなど小津自身の過去作からの引用・反復が目につく。同時に、フィックス・ローポジションの使用も顕著になってきている。
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また、新たに導入され、以後の作品で反復されることになる要素としては『戸田家の兄妹』や『父ありき』などで繰り返されることになる「父親の死」、『淑女は何を忘れたか』の桑野通子などに通じる「飲酒喫煙をたしなみ『ママの時代とは違う』と嘯くお嬢さん、という新しい女性像」などが挙げられる。

笠智衆の活躍も目立つようになり、私なんかは彼が画面に映っているだけでもうオッケー! になってしまうのだが、そんなことよりも、ここにおいてはもはや小津が明朗な学生喜劇に終始できなくなってしまったということを指摘しておくべきだろう。

ここで「明朗な学生喜劇ではない」とは、まず「学生喜劇ではない」ことについては「大学を卒業して就職した後が描かれている」という純粋に説話的な理由があるだけのことだが、「明朗ではない」に関しては斎藤達雄の存在によるところが大きい。ここでの斎藤のキャラクタは単簡に云えば消極的・引っ込み思案・真面目ということになろうが、彼の演技はそれ以上の複雑性を表現しえている。主人公以外でこのような複雑性を備えたキャラクタが登場することは、本作以前では稀であったと思う。

あまりに手軽につくられた感は否めないし、前作『生れてはみたけれど』と比べれば明らかに劣るとしても、ここにはもはや単純な映画を作ることができなくってしまった小津の姿がある。プロットの単純さが映画の単純さを意味しない、それが優れた「映画作家」たる者の一条件だろう。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)ジェリー[*]

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