[コメント] 宗方姉妹(1950/日)
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新東宝なんですよね。小津安二郎54本の監督作品のうち、たった3本しかない松竹以外の作品の一つ。「午前十時の映画祭」にて4Kリマスター版で初鑑賞。とにかく音声が聞き取りやすかったのがありがたい。
後年になって観ているから分かる話を書きますが、前々作の『風の中の牝鷄』が不評だったんですよね。その反動で、次作『晩春』から「嫁に出すだの出さねえだの」といういわゆる小津調ホームドラマが確立していくわけです。本作は、その確立していく過程の一作。そのせいか、やたらドラマチックな気がするんです(頼まれ企画だったのかもしれませんけど)。戦後の小津作品の中で、『風の中の牝鷄』と本作と『東京暮色』が毛色が違う。こういうドラマチックな話、小津は意外と嫌いじゃなかったんじゃないかな?元来アメリカ映画好きですしね。なかなか衝撃的な映画です。
ちなみに、小津には珍しい原作物。原作は「鞍馬天狗」の大佛次郎。日本の夜明けは近い。そう言った意味では歴史小説的でもあるんです。歴史小説というか、歴史の転換点かな。つまり、戦前の教育が身に染み付いている姉と、戦後の思想を纏っている妹の物語。原作小説も映画も1950年(昭和25年)制作。終戦後まだ5年しか経っていない時期。この(戦後の)時代の変化というものは、その後も一貫して小津が描き続ける主要テーマですしね。
あと衝撃的なのは、小津映画には珍しい暴力シーンもあること。聞き分けのない女の頬を一つ二つ張り倒すんです。ボギー、あんたの時代は良かった。
まじでこれ、小津の『カサブランカ』じゃないかと思うんですけどね。昔の恋人ウンヌンもそうですし、なんと言っても山村聰がハードボイルド。山村聰の痩せ我慢映画。山村聰がボギー。ジュリーがライバル。バン ババン バン。言いたいだけ。
そう考えると、小津と野田高梧の脚本が凄くて、みんな「痩せ我慢」して本音を言ってなかったりするの。例えば、高峰秀子が上原謙に「結婚してくれー」言うて、後日、「あれはお芝居。少し本音」って言うんだけど、この心理状態と丸っと同じことが、山村聰が田中絹代に離婚を切り出す場面に当てはまるんですよ。脚本の良さに集中できたのは、ストレスなく台詞が聞き取れたおかげです。4Kリマスター万歳!
でも、一番の衝撃は、カメラが横移動したことかな。他流試合だから厚田カメラじゃないのね。まだ、小津スタイルが完全に出来上がってなかったせいもあるのかな。人物が縦構図で配置されているショットも新鮮だった。
(2024.06.22 TOHOシネマ新宿にて鑑賞)
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