[コメント] ローズ・イン・タイドランド(2005/カナダ=英)
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これは残念作『ブラザーズ・グリム』の撮影の合間に早急に撮影された作品らしいが、どうしてこの低予算作の密度は『グリム』よりずっと高い。
ジョデル・フェルランドは無邪気な仮面を被った大女優の雛型のごとしだ。まったく物事に動じることを知らない。ただ驚き、恐怖する演技をしているだけで、実は彼女の操舵でこの映画が動いているといってもよい(もちろん、テリー・ギリアムの指導のもとに、なのだけれど)。そして本能のもとにすべてを犠牲にして自らの身を守る「女王様演技」が大層堂に入っているのだ。
母や父がドラッグのやり過ぎで天に召されてしまっても、彼女は涙ひとつこぼさないしたたかさを持つ。そしてお気に入りの人形の首たちにも愛しているようで冷酷だ。しかし、これは子供にもともと散見される残酷さだという向きもあろうし、事実それは正しい。だが、ジョデルはそうした大人の反応を楽しみながら演じているあたりに底知れぬ恐ろしさがある。ミイラとなった父の遺体に擦り寄り、そのなかに入り込んでしまったお気に入りの人形首がカラダを得ている空想にほくそえむ演技には、思わず背筋に寒気が走る。まして、敵たる「魔女」の手を逃れるためだけに列車を脱線・炎上させ、家族を失った優しそうな老婦人に取り入るあたりは何をかいわんやだ。
ジョデルのことばかりになってしまったが、それも当然、今後のギリアム作品のミューズは彼女となろうと自分は確かに信じているのだ。この映画は地味でもあり、大したヒットもせず公開を終了するだろう。だが、ジョデルが女優として一家を成す頃には、彼女はギリアム映画の一枚看板を背負うことになるだろう。まったく、恐ろしくも楽しみな今後ではあるまいか。ラスト、溶暗する彼女のアップで瞳の綺羅星のみが残る演出に、ギリアムの同意を自分は確かに認めたのだ。
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