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[コメント] 狂熱の季節(1960/日)

これは巧い。乱暴にカメラを振り回しているように見えて、細部の音の演出まで的確。主人公の無軌道な行動には吐き気を覚える面もあるが、彼の無法な躍動性が映画的活気をもたらしているのもまた事実。連続噴射するエネルギー。
煽尼采

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







自分たちのスリ行為を警察に通報した新聞記者を見つけた三人が、復讐をしてやろう、と決めるのと同時にカーラジオの時報が鳴る事や、時報前には株式市場について伝えていたニュースが、時報の後では米軍がどうのという国際政治に移るといった、金銭とアメリカ人、物語に絡む社会背景を、まさに背景音として挿入する手並みの鮮やかさ。それでいて、明(川地民夫)を「この社会を反映している」などと称えるカマっぽい美術家(?)を明がタバコの煙でからかう場面など、どこか自己言及的なアイロニーが感じられるのも粋な所。

アイロニーという点では、全篇にジャズが鳴り響き、カメラワークや編集のリズムまでジャズに乗せたようなこの映画の中で、「黒ンぼの音楽を盗んだのが白ンぼで、それを今度は日本人の俺らが盗んでんだ。最低だよ」などという自嘲的な台詞が吐かれるのも小気味いい。それでいて最後はぬけぬけと「THE END」とアメリカ映画風に画面に出してみせるふてぶてしさ。

極端な仰角や(直射日光の眩しさの演出でもある)、乱暴に動き回るカメラワーク(それでいて的確に被写体を捉える)など、常に動きのある映画。明が、新聞記者とその恋人、三人で食事をする場面でも、ショット内での動きは抑制されているが、天井で回るファンの影によって画面に動きをつけている。だからこそ、終盤で画面が静的な度合いを強めるのが、背筋に冷たく迫る終末感を煽る。

川地民夫の、太陽が照っていれば日の光を、雨が降っていれば水滴を口に含もうとしているような渇いた様子や、顔を拭う仕種から漂う、身にまとわりつく空気を厭うような様子。大写しにされる、流れる汗。先述のレストランの場面では、新聞記者は顔から汗が噴き出し、その恋人は帽子の影がさす冷静な目元が捉えられ、明は盛んに物を食う口元が映される、と三者三様の表情が、この一点、という箇所をショットに収める事で緊張感を作る。こうした瞬間的な的確さがあってこそ、スピーディーな編集によるリズム感も成立する訳だ。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)寒山拾得[*]

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