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[コメント] 太陽(2005/露=伊=仏=スイス)

いくつかのシーンで感じるいたたまれなさ。これは日本人である私自身を試す映画。
イライザー7

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







天皇制を「空虚な中心」と言ったのはロラン・バルトでしたね。この映画では天皇自身の内面までが「空虚」なものと喝破されているかのよう。この映画の彼は、どんな場面でも、いわゆる人間らしい「内面」を持っていないかのように描かれている。真珠湾について責められ広島を例に出し反論する、普通なら人間らしい言葉でさえ、この中では空虚に響く。

外面における些細な特徴の積み重ねから内面に迫るイッセー尾形の芸が、ここでは逆の効果を生む。いや、イッセー尾形の芸はもともとそんな類のものだったのかもしれない。外面の癖や特徴をしつこく描写すればするほど、内面の薄っぺらさが伝わってくるような・・・。だとすればこれはイッセー尾形の芸ゆえであって、ソクーロフの演出ではない、と・・?

しかし、いくつかのシーンで感じるいたたまれなさの責任は、この映画の側にではなく、私の側にあることも確かだ。

例えばあの「チャーリー」のシーン。GIの声に応じて無邪気にポーズをとる彼から、思わず目をそむけてしまう私。マッカーサーとの会談の後、扉を自分で開けるものかどうかに戸惑う彼を、やるせなく思う私。好きな話題なら蕩々と続け、マッカーサーから「子供っぽい」と言われる彼をかばいたくなる私。

思い入れなんてないと思っていた私の、「思い入れ」が存分に試されました。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)けにろん[*] ふかひれ

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