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[コメント] 雨月物語(1953/日)

くだらない
ルミちゃん

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







出世欲は分かりやすい願望と言ってよいのでしょうか.出世欲に駆られた男の愚かさは、あえて書くまでもありません.この映画の撮られたのは1953年、それから日本は高度成長期を迎え、そしてバブルへと体験しましたが、仕事、仕事、出世が全てで家庭を顧みない夫がどれ程いたことか.そうした人間の生き方のくだらなさを、溝口健児は遙か以前に描いていたのです.

今一人の男、亡霊と契りを結ぶ事は、心の中の願望を描いていると言えます.やはり、この場合も、思いっ切りくだらなく描きました.王子様とかお姫様に憧れるのは、誰にでもあることなのですね.けれども、妻子を捨て、家庭を捨てて浮気に走ることは、許されないことと言わなければなりません.(浮気をしてはいけないとは言いませんが)

出世欲に捕われた男は、女郎に身を落とした妻と出会う事により、自分の愚かさを悟って妻と共に郷里に帰り、幸せに暮らしたと言えます.許される愚かさと描かれました.

亡霊と契りを結んだ男の場合は、妻は落ち武者に殺されてしまっていました.妻もまた亡霊となって何も知らない夫を出迎える描き方が妙.許されない愚かさと描かれています.

夫婦が幸せに暮らすこと、家族が幸せに暮らすことが何より大切なこと.そして、出世欲に捕われた男と、亡霊と契りを結んだ男、この二人の人間の願望の対比は、浮気をして、そして家族を捨て去ることは、人として許されない事だと言っているのですね.

この映画、人間の持つ愚かさを、そのままくだらなく描いたに過ぎません.それにしても、いったいどういう感覚で、これ程くだらない映画が撮れるのか、考えさせられたのですが.この映画、ゾラが居酒屋で示した自然主義で表される芸術と言ってよく、納得しました.

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (5 人)irodori G31[*] ハム[*] ボイス母 マグダラの阿闍世王[*]

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