[コメント] 弓(2005/韓国)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
舟の上、少女と老人は互いに相手しか、自分が向き合う相手は居なかった。そこに現れる青年と、彼が残していくウォークマン。少女が老人の弓の音色から離れ、ヘッドフォンから聞こえる音色に耳を澄ます時、少女の内にはあの青年が宿っている筈だが、老人の中からは少女が消える。
老人は、少女に近づく男たちに誰彼構わず矢を放つが、青年を庇って、少女が立ちはだかると、矢も行き先を失う。結局、少女と婚礼を成就した後、老人は弓の旋律で少女を愛撫し、矢を虚空に放ち、逝ってしまう(多分、性的な意味でも)。その矢が少女の股の下辺りに刺さる奇跡は、舟という揺り籠の中で愛を育んできた二人の生活のピリオド(完成/終点)になっている。これが青年の眼前で起こるという所に、老人の最後の執念を感じさせられる。キム・ギドクの執念乃至は執着心と言うべきか。プラトニックなセックス。
弓占いでは老人にその身と命を預けていた少女が、他ならぬその占いによって老人の下から離れる突破口を得るというのが、この映画の味噌だろう。この後の、少女が去るという事態を利用しての老人の自害、それが未遂に終わった後の婚礼と自害、そして矢。全ては、老人と少女が、自らの身を犠牲に捧げる事で、相手の頑なな心を溶かして自分の思いを成就する、という逆説的な展開を示している。
物語の構図は何とも明瞭かつ図式的と言ってしまって良いのかも知れないが、老人と少女の息遣い、仕草、表情の変化、それがこの映画の全て。この静謐さと激しさは確かにギドク。最後の字幕は余計だと感じる人も居るだろうけど、僕は、最後に奇跡的なピリオドを打たせたこの物語を、自分の人生の中では通過点とした彼の思いには、割りと感銘を受けた。
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (2 人) | [*] [*] |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。