[コメント] どろろ(2007/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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塩田明彦映画は、常に生きる者に苦痛を与える。冷徹な視点で苦痛を与え続ける。 生きるのは苦しいことだと描写し、「それでも生きろ」とヒドイことを言う。それが塩田映画だ。
生まれながらに背負った不利益。それは本人の意志とも行動とも無関係に与えられる。 宮崎駿はそれを“不条理”と呼び、『もののけ姫』のアシタカに与えた。 塩田明彦は、『害虫』では大人のせいで不条理を抱えた少女を、『カナリア』では一歩進んで親のせいで不条理な環境に置かれた少年を題材に、その魂の道程を描いてきた。 『どろろ』はその延長線上にある。 (魔物を倒すエピソードの中で“子捨て”を選択した理由はそこにあるだろう)
いや、正確には、(大人主人公の)メジャー路線との交差点、ある意味一つの到達点と言ってもいい。
彼のメジャー路線(なぜか本作も含めて3作ともTBSの映画だ)は感動涙物と思われがちだが、主人公二人に抱擁も許さない『黄泉がえり』、生き残った者ばかりが苦痛の表情を浮かべる『この胸いっぱいの愛を』と、その冷徹な(底意地の悪い)スタンスはデビュー以来変わっていない。
従って、初のアクション映画でも初の(無国籍だが)時代物でも(マンガ原作は初めてじゃない)、塩田明彦に余計な気負いは感じられない。むしろそんなことに主眼は置いていない。彼が描きたいのは、彷徨える魂の行く末だ。
この映画は、単に肉体を取り戻す物語ではない(それはストーリーにすぎない)。 「人間の尊厳」に関わる物語だ。 肉体はおろか名前すら与えられない主人公(これは手塚治虫の手腕だが)。 それが肉体的にも精神的にも“心”を取り戻し、痛みを知り、涙を知り、愛を知る物語だ。 肉体に魂が宿るまでの物語と言ってもいい。 そう考えれば、この脚本はすごく良く出来ていると思う。
この長尺を飽きさせず、駆け足の印象も与えず、原作の持ち味も殺さずに、作家としての己のテーマを可能な限り持ち込んだその手腕に、最大限の称賛を送りたい。 中井貴一つながりで考えてみれば、『陰陽師』より百万倍面白かった。
余談
演出面で大変感心したのが、中盤、モンタージュになりがちな数々の魔物と戦う場面。 長すぎず短すぎず、時にシリアスに時にマンガチックに、テンポよく死闘を見せる。 その場面で「なるほどなあ」と感心したのが、戦いを端で見るどろろの表情。 つまり、アクションシーンで「語り部」を有効活用しているのだ。 巧いなあ。映画だなあ。
さらに余談
柴咲コウはスクリーンで表情が映える女優だ。ヘリコプター宙づりで炎の中を登場したり、主人公と涙ながらに抱き合って久保田利伸がBGMにかかったりしなくてよかった。
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