[コメント] あるいは裏切りという名の犬(2004/仏)
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闇夜の男の悲痛な叫びから警察表示板の窃盗、バーに乱入する二人組みの有無を言わせぬ凶行、むくつけき男たちが繰り広げる不穏な酒盛り、マシーンのような正確さで装備をととのえ出撃する武装集団、そして夜明けのハイウェーでの現金輸送車襲撃。冒頭から、何の説明もなしに一気に繰り出されるアクションカット群。こんな圧倒的スピードを持ったフランス映画は初めて観た。その疾走感は、話が軌道に乗りぐいぐいと動き始めても減速することを知らない。
さらに、跋扈する男たちのアクの強いこと強いこと。性格や行動はもちろんだが、何といっても風貌が凄い。よくもまあ、こんな鼻の男どもを何人も集めたものだ。彼らの顔や体格はまさに修羅場で肉体と命を張ってきた男のそれだ。観ているうちに、こういう顔の男たちのアクション映画の記憶がよみがえった。黒澤明の『用心棒』だ。この男臭さ、むさ苦しさは黒澤映画そのままじゃないか。
そして、女たちのとのからみが実に良い。レオ警視(ダニエル・オートゥイユ)と旧友の元娼婦(ミレーヌ・ドモンジョ)の間に流れる時の重さを含んだ信頼感。レオと妻カミーユ(ヴァレリア・ゴリノ)の間に流れる言葉は少ないが痛いほど伝わる愛情と、その裏返しの不安。そして、出所後のレオと成長した娘の間に漂う希望と絶望の予感。そう、人物の「間」に空気のように気持が漂うのだ。明確な言葉や態度での表現を良しとするハリウッド映画では、こうはいかない。この「間」こそがフランス映画だ。
私は、現代のフランスを含んだヨーロッパ映画に明るい分けではない。ただ、注目され日本に紹介される作品群の多くが、未だにヌーベールバーグや小津映画の残滓を引きずっているのを見るに付け、悪くはないのだが(いや、本当は結構ボロクソ言ってる)、その進歩のなさに忸怩たる思いもあった。そんな思いを吹き飛ばす凄い監督がいるじゃないか。本作のオリヴィエ・マルシャルはこれがまだ2作目だそうだ。なんだ日本に紹介されてないだけで、新しく面白い映画がまだまだたくさん有るんじゃないのか?
もし、そんな映画群があるのならどんどん観たい。きっと、それは「ニュー・フィルム・ノワール」と呼ばれ映画史に名を残す一群となるだろう。
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