コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 東京タワー オカンとボクと、時々、オトン(2007/日)

これにノスタルジーを感じる私もやっぱり駄目人間。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 TVドラマ化もされたリリー・フランキーのベストセラー小説を映画化。映画の作りとしてはかなり起伏が少なく、ちょっとだけ普通とは違うけど、どこにでもある話で物語にしてもドラマ性そのものはとても低い。

 しかし、その起伏の少ない物語がとても心地よく心に入ってくる。これは一言で言ってしまえば、ノスタルジーを刺激されるからなのだろう。悪ガキ時代や一人暮らしを始めて親に心配させっぱなしだったり、同じような駄目人間とつるみ、「自分だけじゃない」と妙な安心してみたり、それに今もなお碌々連絡もしていない今…確かにこの主人公“ボク”はリリー・フランキーなんだろうけど、どこかに自分を思わせる描写があることで、”ボク”がいつの間にか自分になってしまってる時があることに気づかされてしまう。そうなると、物語が身に迫ってくるようになる。少なくとも私にはこれは非常に有効な方法だった。思わずその夜に実家に電話かけるくらいに(笑)

 映画とはこう言う作り方もある。一種映画とは他人の生活を盗み観る快感もあるのだが、同時に自分の生き方を立ちどまって振り返ることもできるのだ。例えば『ロッキー』(1976)や『燃えよ!ドラゴン』(1973)を観て「俺もこうなりたい!」と思って突然トレーニングを始めてみたり、『スタンド・バイ・ミー』(1986)観て子供の頃の友達のことを思い出してみたり、ATGの諸作品で「ここに俺がいる」と思ってみたりもする。狙ってなかなか出来る事じゃないはずなのだが、ノスタルジーを刺激することを巧みに作ってみたのが本作だったと言えよう。原作そのものが上手く作られているのが分かるけど、一見起伏が少なく、平板になりがちな物語を脚本の松尾スズキが上手く仕上げてくれた。

 キャラに関しては、声変わりもしてない冨浦智嗣が一年後にいきなりオダギリジョーに成長してしまうつなぎの悪さだけは気にかかるけど、それ以外は文句ない。この人はもう安定した名優だと言えよう(ただ今回は何でだか口元のほくろが気になって仕方ないのだが、これは演出か?)。何より内田也哉子が本当に若い頃の樹木希林みたいで、仕草一つ一つに笑えてしまった。

 30代を過ぎた、特に男性には自信を持ってお勧め出来る作品だ。

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (4 人)tkcrows[*] SUM[*] プロデューサーX[*] もがみがわ[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。