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[コメント] ブラッド・ダイヤモンド(2006/米)

アフリカ内戦を舞台にした戦争アクションモノかと思ったら、なかなかどうして、ハードで骨太な社会派映画。「紛争ダイヤ」、「少年兵」というアフリカの内戦を抱える国がもつ無残な現実を見すえ、しかもその背景にある「先進国」との奇麗事では済まされない暗部にまで踏み込んだ力作。
シーチキン

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







アクションシーンも緊張感があり、レオナルド・ディカプリオの堂にいった演技には見ほれてしまう。思わず彼が好きになってしまった。

元傭兵という経歴と、アフリカ大陸から出るためのチケットと言いながらも本当にアフリカから出ることができるのか、その複雑な胸中を嫌味にならずに少しずつ演じていったからこそ、彼がソロモンの息子を助け出すシーンやソロモンへダイヤを渡すシーンに説得力があった。南アフリカ軍の軍事キャンプのテントから必要最低限のものを手際よく持ち出して抜け駆けするなど、演出もさえていた。

それに何より、「少年兵」の生々しい実態に一歩踏み込んだ意義は大きい。その深刻な実態のいったんを垣間見せたのではないか。劇中でも少年に目隠ししたまま銃を撃たせて無理やり銃殺経験をさせたり、麻薬を教えたり「二つ名」を持たせて「兵士」として洗脳していく様が描かれていた。

去年公開された『イノセント・ボイス』では中米の内戦で政府軍側が12歳になると徴兵し、兵士として訓練し内戦に投入していた実態が描かれた。その時でも「少年兵」の実態はアフリカでこそ深刻なことが劇場で紹介されていた資料にあったが、衝撃という言葉でも言い足りないほどだ。

集落を襲い、子どもをさらって少年兵としての訓練をし、その仕上げは数ヵ月後に、その子どもをさらってきた集落を再び襲い、今度はその子どもの肉親を探し出して、少年兵に殺害をさせるという例も普通にあったと言われている。

さらにさらわれるのは少年だけでなく少女も同様にさらわれ、そのままゲリラの妻として奉仕させられるケースも後をたたない、ということも紹介されていた。

劇中ではゲリラの幹部の「俺は悪魔だな。だが地獄に住めば悪魔にもなる」というセリフがあったが、そのセリフはまぎれもな真実ではないだろうか。

しかも内戦が長引けば長引くほど、かつては誘拐同然にさらわれて「少年兵」に仕立て上げられ生き残って大人になった兵士が、今度は他の子どもを対象に同じことをしてしまうという、地獄でもここまでひどくはないような事態が生まれつつあることを思うとやりきれない。

絶滅しつつある野生動物ということだけがアフリカ大陸の抱える問題ではなく、むしろ人間性そのものまでもが絶滅しつつある地域まで存在しているのではないかと、考えてしまう。

それだけに、ワンシーンだが深く心に残ったのは、ディカプリオらが、その少年兵の厚生施設から再び出発し、橋の手前でその車がゲリラの少年兵に止められたときのやりとりである。

戦火をくぐってきたディカプリオは、いち早く少年兵を見つけ「兵」に見つかったから逃げるか戦うかすべきと身構える。一方、厚生施設の責任者である教師は、少年兵と言えども「少年」じゃないか、何を大げさにいうのかと気軽に声をかけた。

結末は、命こそ助かったものの教師が少年兵に撃たれてしまう。もし、この次があるのなら、その時、教師は再び少年兵に対して「少年」じゃないかという態度をとれるだろうか。

自分のことや現実を思えば、到底ありえないことであろうけども、やっぱり再び「少年じゃないか」という態度で接して欲しいと思わずにはいられない。

(評価:★5)

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