[コメント] プレステージ(2006/米=英)
映画を見終った人むけのレビューです。
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まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
『フォロウィング』(1998)や『メメント』(2000)で観客をあっけにとらせたノーラン監督作品。監督は実験的な映画を数多く作っているが、その姿勢が大変面白く、予告などでも「この結末は言わないように」とのことだったので、わくわくしていた。このレビューも一応それに従い、オチの方はなるだけ避けるように書いてみよう。
私自身の話になるが、私は根が単純なのか、どんでん返し映画にはコロッと騙されることが多い。年少の頃はそれが恥ずかしかったから、強がってそう言う映画をわざとこき下ろしてみたり、あるいはさも最初から分かっていたかのように振る舞ったものだけど、近年になってむしろこう言うのは騙される方が面白いと言うことに気が付いた。映画って言うのはびっくり箱みたいなものだから、斜に構えて観るよりも、映像の中にドップリと漬かって、どんでん返しのラストが来た瞬間、のけぞる方が絶対楽しい。そう言う意味では感謝すべきは『シックス・センス』(1999)だろう。この作品で、騙される楽しみって奴を知った。
それで、ノーラン監督の『メメント』は、私にとってはベストのどんでん返し映画の一つ。見事に騙されたし、それが凄く楽しかった。この作品の場合、特殊な設定ではあるが、時間軸を崩したことが謎解きの煙幕として上手く機能していた。
それで本作だが、確かにノーラン作品っぽい出来。『フォロウィング』並に時間軸をごちゃごちゃに、最後の結末に向けて話が展開している。
ちょっと話をまとめてみよう。大まかに分け、物語の時間軸は5つに分かれる。
1.二人の修業時代。
2.お互いに憎み合いながら芸を磨いていく時代。
3.ボーデンのマジックのタネが分からず苦悩するアンジャー。
4.ついに自分なりの瞬間移動を作り上げてマジックを行うアンジャー。
5.アンジャー殺しの汚名を着せられて処刑されようとするボーデン。
このうち、物語のメインは3だが、その中に他の時間軸の話が次々と入り込んでくるため、観てる側はかなり混乱する。この混乱こそが最後の謎の伏線の煙幕になっているのだが、どうやら今回に関してはそれはさほど上手く機能できなかったように思える。
この作品には二つのどんでん返し要素が隠されているのだが、多分二つあると言うことで、作り手の方もどこまで突っ込んで良いのか混乱してしまったのでは無かろうか?これみよがえしに謎解きの一歩手前まで何度も持っていくため、途中で二つとも分かってしまうのだ。折角騙されようと思って観てるのに、「まさかこれじゃなかろうな?」と思ったことがことごとく当たってしまう。これは結構虚しいよ。いやそもそも、劇場で映画観る場合、怒濤の如く映像で押しつぶされ、考えることさえ面倒くさくさせて欲しかった。映画観ながら考えてしまうってのは、つまりはそれだけ退屈だって事だし。
一応主人公はジャックマン演じるアンジャーの方にウェイトがかかっているのだが、その復讐の感情に同調できなかったのも痛い。何故あそこまで憎まなければならないのか。色々描いていても軽すぎる。
ラストも不満。あそこでマイケル=ケイン演じるカッターの満足した顔で終わるんじゃなくて、後ろからステッキで床叩くコツコツという音が聞こえているか、足下を映してこそ、本当のハッピーエンドになったのに。
ただキャラに関してはかなり良かった。ジャックマンってワイルドな役も似合うけど、洗練された紳士の役もかなり似合ってる。芸域がかなり広い人だって事がよく分かった。マイケル=ケインも良い歳の取り方してるねえ。『トゥモロー・ワールド』(2006)のアレではびっくりしたけど、執事みたいな役が実によく似合う。改めてファンになりそう。ヨハンソンもいつの間にか悪女が似合う女性になっていて、美しさに磨きがかかってきたね。ただ一方ベイルだが、この人ひょっとして芸域が狭くなってない?なんかトム=クルーズの亜流に見えてきたんだけど…
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