[コメント] アポカリプト(2006/米)
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狩りの獲物を分け合いながら仲間うちのドン臭いやつをからかう様子や、「子供ができるまではここを動かないからね」と居座る母親に「気が散るからあっちいってよ」という娘の困った表情なんかが、妙にアメリカンな若者たちの雰囲気なのが違和感たっぷり。「あっちいってよ、ママ」って感じだもの。
16世紀のメキシコの狩猟民族の若者たちを知らないので、それっぽくないなとは言えないんだけど、まあ事実はどうあれ、そう描くのは、現代の観客たちにジャングルの彼らとの一体感を感じさせようという意図なのだろう。
ていうか、この話、弟とかを殺された不良グループのリーダーが仲間を引き連れて復讐にくるっていうバイオレンスものとまるでおんなじテイストだ。いよいよ追いつめられた主人公が身を翻し、襲ってくる敵にメンチを切るところでグーッとアップしていくところなんかハリウッド正統アクションふうである意味で悲しい。監督にとって彼らをアメリカ映画のヒーローと同じように演出することは、野蛮な土人をさんざん描いてきた過去の作品たちに対する批判なのだとは思うが、どうにも現代っ娘の篤姫を見せられているような変な具合はぬぐえない。
人を殺すとか戦うという意味あいは、やはり現代のわれわれとは次元の違うものがあるはずで、現代風に描くことで、その時代の摂理に従っての行為であるというストイックさがここには失われているように思うのだ。
狩猟民族の戦いを現代に通ずる演出で描きながら、現代の人間にも通ずるプリミティブな暴力性という本質論に向かわないのは、そういう哲学に興味がないのだろう。どんな種族や立場にいる者であっても彼らが孤高のヒーローであれば、それは男として人間として立派だと最大のリスペクトを贈る、でもカトリック以外の人間の行動原理は一顧だにしないのだろう。そういう監督の中でのバランスが感じられる。
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