[コメント] 魔笛(2006/英=仏)
ケネス・ブラナーの一生懸命さにはまったく頭が下がる。
俳優としてならいざ知らず、映画を撮る才能に恵まれているとはとても思えず、それゆえ出来のよい作品ばかりを送り出してきたわけでもなければ悪い意味で突出した作品を作ることすらなかったケネス・ブラナーという監督を私たちが完全に無視することができなかったとすれば、それはひとえに彼の一生懸命さのためではないだろうか。本作におけるブラナーの一生懸命ぶりはちょっと尋常ではない。美しい草原から空に浮かぶ複葉機、そして激しい塹壕戦へと自在にカメラが移動するワンシーン・ワンショットをオープニングから繰り出し(と云っても、これは多分にCG処理が施されており、正確には「ワンシーン・ワンショット風」でしょう)、その後も一生懸命考え、一生懸命撮ったことがありありと伝わるショットが続く。実に、実に涙ぐましいのだ。
平生であれば苦言を呈さざるをえない画面が散見されるし、CGの使用過多ぶりもやはり気になるのだが、それもブラナーの一生懸命さゆえだ。寛大に許してしまおうではないか。才能に恵まれなかった者にとって「一生懸命やる」ことは美徳でなければならないのだ。そして、リアリズムなどという無用の長物に囚われた映画の貧弱さを、フルテンションの脱力芸とでも云うべき仕方で暴いたブラナーに大いに祝福を与えようではないか。
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