[コメント] シッコ(2007/米)
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毎度過激なレポート・ドキュメンタリーで知られるムーア監督が投入した新作。キューバへの半ば密入国までやらかして、本当かどうかは知らないが、当局に睨まれて公開自体が危ぶまれたとも言われている。そんなことで、とりあえず無事公開されたこと自体は評価したい。
まず、本作を観て一つ思うこと。
ムーア監督、老けたなあ。前作『華氏911』(2004)の時と比べ、肌はかさかさだし、疲れきっているように見える。なんだかいらない苦労を多数背負いこんでるんじゃないだろうか?医療制度に切り込む以前に自分自身が病気で倒れるんじゃなかろうか?…それもあって医療に目が向いたのかもしれないな。それに画面から怒りというものが漂ってこないのだよな。これまでのムーア監督作品って、良かれ悪かれ、彼の憎悪が滲み出してきていた気がしたのに、本作は憎悪よりは諦めの感情の方が高いように見える。
話そのものは現在アメリカが抱えている問題点を明らかにしていて、相変わらず切り口も過激だし、キューバ密入国なんて無理をやっているから、ドキュメンタリーでも物語性が高まっていている。そう言う意味ではこれまで以上にサービス精神は高く仕上げられてる。
実はこれまでアメリカが公的健康保険を持っていないということはまるで知らず、それがないとこんな悲惨なことが起こりえるとは思ってもなかった。途中まで「私が住んでいるのはまだ日本で良かった」などと考えていたものの、ヨーロッパの先進国諸国の実態を観るうちに、日本の保険制度の弱さも改めて考えさせられてしまう。特に近年国民健康保険が極端に上がり、これまでのような手厚い保護もできなくなっていると言う事例をいくつも見せられているので、観ていて心が痛い。これまでのムーア監督作品はアメリカ国内を舞台としていたので、対岸の火事程度の認識しかなかったが、現在の日本のことまで考えさせてくれた。と言うことで、今までの中では最も切実さがあったと思う。
ただ一方、ムーア監督の突撃インタビューはあくまで一つの事例の一面だけを扱っているだけというところもあって、作り方自体がとても恣意的なものを感じさせられる。テレビの延長上にある作品なので、どこか素直に観られないまま。
保険問題はどの国も問題を抱えているのだから、一方的に外国は素晴らしいで終わってしまうではやっぱり片手落ちなんじゃないかな?ほんのちょっとでいいから、外国の医療の問題点も語ってほしかった。
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