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[コメント] 母と子(1938/日)

「女なんて人間じゃないのね」を巡る苦い喜劇。田中絹代水戸光子のシーツの引っ張り合いが素晴らしい。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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「妾の子」非嫡出子を描いた邦画は数多いが本作は軽妙な味を出している。渋谷実は明朗都会派で、松竹においてそういう存在だった。登場人物全員が明るいし軽い。前半を引っ張る佐分利信の二枚目半のもっさい造形がいい。「厄介払いのため別荘を貰う」吉川満子の軽みはしかし、そうしないと生きていけないから身についたものに違いなく、血の通った造形だ。

ラストの株主総会で増資をぶち上げる河村黎吉というドライなラストはいきなり志賀直哉の不人情な短編に戻ったような抜群の呼吸があった(中盤に「会社は今は景気がいい」と噂されるのはこのラストを見越しての前振りで、当時の実情ではあるまい)。

恋敵同士がお互いを知らずに佐分利の布団を両側から直しているショットが私的ベスト。田中絹代の正義感が美しい。対する、若い頃から倖薄そうな水戸光子がはまり役。ラーメン屋の女給は麗しいが、何しても無理に明るく振舞っているようなニュアンスがあり、吉川を補足して作品の主題を浮かび上がらせている。

なお、原作の矢田津世子(谷田は誤り)は坂口安吾のパートナーとして有名な作家。

(評価:★4)

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