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[コメント] バンテージ・ポイント(2008/米)

「なかなか面白い。よく出来た脚本だ」と書きそうになって、どうしても思いとどまらざるを得ないもの足りなさを感じるのは、その原因もまた脚本にあるからだ。構造的な巧みさはあっても、残念ながら複眼的にものごとを見ることで感じられる人間の面白さがない。
ぽんしゅう

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







確かに見事に分割され、再び構築されなおした話の運びは面白く、分割されった視点を接いでゆくスピード感あふれる演出もなかなかみごとだった。ただ、その時間の反復から徐々に明らかにされるのは事件の構造のみで、そこにかかわる人物たちが、その構造を埋め合わせるためだけに準備されたパーツにしか見えないのがもの足りなさの原因だ。

例えば、よく出来た脚本といえば近年ではポール・ハギスの「クラッシュ」(05)や内田けんじの「運命じゃない人」(04)が私の頭には浮かぶ。ご覧になった方はわかるだろうが、両作品とも巧みに時間軸を操りながらそのなかに、前者は登場人物たちが置かれた人種としての境遇によって、後者は各人がなにげなく発する台詞によって、人が織り成す悲しみや可笑しさを作り出していた。

もちろん本作が、そんな到達点を目指した作品でないことは明らかで、あの面白さを通り越してポピュリズムの極みにしか見えないビデオ巻き戻し演出を、何ら恥じることなく執拗に繰り返したことで、ただただ判りやすさを追求した映画であることなどは百も承知だ。しかし、設定された背景と準備された人物たちが、いかにも意味ありげ(例えば、舞台であるスペインは、あのイラク戦争当時に列車爆破テロにあい派兵を断念し米国から非難をあびた国だ)であったのも、私の肩透かし感を大いに増幅させた。

この脚本は、志し半ばの出来に見えてしまうのでした。

(評価:★3)

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