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[コメント] さらば箱舟(1982/日)

今見ても、やゝとっ散らかった、まとまりの悪さは感じるが、恐るべき強い造型の連続で見応えがある。やはり、ホドロフスキーとの共通項を多々感じる。そういう意味では、本作は全然古びていない。
ゑぎ

 百年はおろか、人類が絶滅するまで残すべき日本映画の傑作だ。なお、劇中の「その意味わかる」の警句に呼応して云うならば、意味なんて分からなくてよいと思う。

 山崎努が、記憶の喪失を恐れて、あらゆる物に、その名前を書いた紙を貼っていく、という場面が印象に残る。こゝはガブリエル・ガルシア=マルケスの原作(「百年の孤独」)でも最も有名な部分で、本作の描き方としても、「俺」「スエ俺の妻」なんてクスリとさせられるが、しかし、ちょっと作品中で突出し過ぎたエピソードに思える。全編通じたモチーフとしては、時計や時の扱い、道の穴や、水(水面)を使った隠蔽と暴露の演出の見事さが際立っている。小川真由美の貞操帯も隠蔽と暴露のモチーフだ。隠蔽された人は、多くは、別人として、あるいは成長して再生する。

 鈴木達夫の撮影も、ひび割れた土地の薄暗いファーストカットから始まって、全編、実験精神に溢れた異彩を放つ仕事ぶりだ。突然のモノクロとパートカラー。森のシーン(高橋ひとみのシーン)の、黄緑色のフィルターワーク。山崎が大八車を引いて斜面を行く黒い夜のカット。松明を持った白塗りの男達が踊る、演劇的場面の青い夜の表現などなど。

 前半の本家の場面で度々出て来る、正座するお婆さんのカットが面白い。後半も(時が経た後でも)使ったら良かったのに。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)けにろん[*] 水那岐[*]

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