[コメント] 断崖(1941/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
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ラストシーンに関してはやや消化不良の感も否めないのは事実だが、この映画はそこに至るまでの過程が重要。あまりに巧妙すぎて終盤は目が話せない。
前半は安っぽい恋愛劇のような雰囲気があり、サスペンスを楽しみにしていると退屈する。なかなか疑惑の確信には入っていかないからだ。しかし、ヒッチコックはそんな前半でも細かいところで意味深なトラップを撒いているように思える。ジョニーがリナを連れ出した際に、嫌がる素振りを見せるリナにジョニーは「殺人犯から逃れるようなもがき方だ」というのちの展開を暗示するかのような台詞を発するし、冒頭のシーンでタバコは吸わないと言ったジョニーは結婚生活が始まると何気なくタバコをふかしていて、嘘つき男ぶりを感じざるを得ない。こういった細かいところからも、観客はリナと同じようにジョニーに対して疑惑を募らせるのだろう。
畳み掛けるようにジョニーへの疑惑が次々に降りかかってくる後半で緊迫感を感じる観客は完全にヒッチコックの罠にはまった観客と言って良いだろう。緊迫感を感じるということは、自然とリナの視線に立って状況を眺めているからだ。気づかないうちにジョニーを疑い、妙に深読みしたりするのも、ヒッチコックによって観客がリナになってしまっているからである。そして、リナを演じたジョーン・フォンテーンの疑惑による不安感を表す表情が見事だ。観た後にアカデミー主演女優賞受賞と知ったが、それも大いに納得できる。
冒頭で述べた通り、結末は少し消化不良なのだが、その理由はクライマックスの前であまりに大きな緊迫感を味わってしまうからだ。ということで採点すると、実はものすごく難しいのです。“映画全体として”という点を強調して、4点にしたいところだけれど、厳しく3点にしておきます。のちのヒッチコック作品の完成度を考えて、ということも付け加えておきましょう。
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