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[コメント] セックス・アンド・ザ・シティ(2008/米)

個性の異なる女四人が、時に喧嘩もしながら、却ってそれを通して新たな覚醒を得る。ドラマそのままのSATC。だが、二時間超を一気に観せる映画の特性を活かし、予め張られた伏線を回収するまでに長い時間を置く構成によって、より大きなドラマを描いてもいる。
煽尼采

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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その一つが、キャリーとの結婚式から逃げ出そうとしたビッグに怒ったシャーロットが、彼に今度会ったら「あなたの生まれた日を呪ってやる!」と言ってやる、という台詞。実際にシャーロットがビッグと再会してこの台詞を放つのは、かなり後になってからなのだが、この時間的スパンによって、その間に於けるキャリーの心境と情況の変化が、この台詞を熟成させていたと言える。

キャリーは、時間をかけて失意のどん底から少しずつ這い上がるし、新たな秘書との交流の中で、仕事の面では支えられて復帰でき、また、恋を求めてニューヨークにやって来て間も無い彼女を物心ともに援助する事で、全てを失ったかに思えた自分が一人の女として積み重ねてきた経験値を再確認し、自信をとり戻してもいたように思える。ビッグを再び受け入れる素地が出来上がりつつあるキャリー。シャーロットが例の台詞を吐いた途端、彼女は産気づいてしまい、言わば、この呪いの台詞に彼女自身の体がNOと言う。そして夫のハリーはビッグについて、「幸せすぎて、彼に同情しちゃったんだ」とキャリーに告げるのだ。

こうした、登場人物間の絶妙なボール回しは、他にも幾つか挙げられるが、今回の映画では特にシャーロットが、他の三人とのお喋りに養女のリリーを同席させている事などからも感じられるように、幸福な家庭生活という、最もオーソドックスな、明るい面を代表している。失意のキャリーにリリーから贈られたバレンタイン・カードには、シンデレラの絵と共に「間に合うかしら…」という台詞が書いてある。間に合うも何も、今さらビッグを許す気などゼロな様子のキャリーは、あどけない少女からのバレンタイン・カードの優しさと淋しさとを噛みしめる。だが最後には、このバレンタイン・カードと同じく青色をした靴が縁で、遂にビッグと再会し、その足に靴を履かせてもらうという、シンデレラ的ハッピーエンド。

キャリーと一緒にハロウィンの衣裳を探すミランダの「女は魔女かセクシーガールしか無いの?」に「それ深い」と応えるキャリーの台詞のような、恋愛の格言めいた言葉が出てくるのもSATCらしくて嬉しい。また、あの長い長いドラマで四人を見守って来た視聴者としては、結婚式でのビッグの翻意にショックを受けたキャリーを、他の三人が瞬時に互いに役割分担をしてフォローする様子は実に感動的。ただあの状況ではやはりビッグにも幾らか同情してしまうのであり、そこで気づいたのは、SATCには男同士の友情という要素が殆ど皆無だという事。当たり前と言えば当たり前ではあるけど。

四人の中では今回、シャーロットだけは何か課題を克服するというよりは、一人幸せすぎて怖い、という妙な所での葛藤くらいしか無い。映画全体の中の役割は決して小さくなかったが、彼女自身は「幸せなウ○コたれ」で終わってしまった物足りなさが拭えない。もし続篇があるとすれば、彼女にも何かを乗り越える成長劇が与えられたらいいなと思う。ギャラリストとしての仕事ぶりも見たい。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)G31[*] まりな

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