[コメント] 闇の子供たち(2008/日)
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正直造り方としてこれで良いのか、と思った。繰り返し描かれる性的虐待場面に阪本監督の強い決意を感じるものの、臓器移植・人身売買・児童労働・性的虐待はオーバーラップはすれど一つの問題ではなく、怒りは吹き付けてくるが告発は混乱しているように思われた。
物語は明らかな映画的虚飾が施されているが、上記諸問題の描写には嘘はあってはならない筈だ。だからこそのガチンコ描写である筈なのだが、気になったのは「日本人は違法にタイ人の臓器を購入しているのか?」という点。それは恒常的なものなのか、検挙されたケースがあるのか、現在そのルートは壊滅させられたのか。日本人が米国などで移植手術を受けている事で国際的な軋轢の原因になっている事は承知しているが(後述)、タイ人からの違法移植の実態がどの程度真実なのかに非常に危うさを感じた。(中国国内での児童拉致・臓器狩りなんて噂もよく聞くが…) 『復讐者に憐れみを』('02韓国/パク=チャヌク監督)でも違法集団はリアリティゼロで描かれていたが、あっちは別テーマの娯楽作なので許せなくはない。
南部浩行(江口洋介)の描き方にもう一歩踏込んで欲しかった。或る種のミステリーを付与しているが、それが明かされた後でそこに空いた暗闇に、更にもう一歩踏込んでも良かったのではないか? そこまでやれば江口の生涯に於いても、南部は重要な役になり得たのではないだろうか。
実際の出演者の中で配役にもっとも苦労したのは妻夫木だったそうだ。宮崎は内容を理解しすぐに出演を承諾したが、妻夫木は「こんな夢の無い作品を作る意味があるのか」と抵抗したのだとか。最終的には自分の演じる腰の引けた若者が、最も一般日本人像に近い事を理解して出演を承諾したそうで、「日本人」を自覚的に演じた事自体は流石役者さんだとは思うが、しかし彼の<人間の器>を感じる話ではある。
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2009年、日本の移植医療は大きな転換期に差し掛かっている。臓器移植法案はA案(本人(未成年者も含む)に拒否の意思表示が無かった場合、家族の同意で脳死状態からの移植が可能)が衆議院を通過し、7月13日に参議院でも可決された。これは既に海外臓器(海外での移植手術)に依存してしまっている国内患者の需要に応える為(日本人の行動に批判的な国際情勢により今後海外での移植は徐々に制限される)に、結果ありきでロビー団体と与党(註:自民党)によって強行された結果だ。
全世界に理不尽な死が満ちている中、臓器提供によって救われる命は「助かって当たり前の命」なのか、「奇跡的に救われる命(死すべきものが救われるならそれは奇跡だろう)」なのか。「命を救う」為の猛烈なエネルギーには、イラク市民を大量に死に至らしめた<対テロ戦争>に通じる暴力を感じる。移植医療が脳死の議論を吹き飛ばし、人間の死を定義してしまった歪曲。TVのコメンテータは皆正面からのA案批判に口を噤み、東京オリンピック招致反対と同じく日本の言論の死を露呈している。
『闇の子供たち』は臓器移植自体は批判していない。私も今まで財布に臓器提供の意思を示したカードを入れてきたが、今国会(とマスコミを含めた日本人全体)の有様を見ると拒否表明に転じようか、真剣に悩み始めている。
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