[コメント] ブーリン家の姉妹(2008/英=米)
映画を見終った人むけのレビューです。
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歴史的にはメアリーは姉らしいが、どういうわけか妹の設定である。まあ、順番からして妹を最初の妻にする方が映画的には面白い。しかし、歴史的な事実をすっぽり変えてしまうというのも思い切ったやり方だと思う。
そこまでして作り変えたメアリー役のスカーレット・ヨハンソン、これがなかなか芯の強い、観客からは唯一信望される役をこなしている。夫までいながら国王の愛人に召し上げられる悲しみ、寝取られ夫も宮中に執務しているという倒錯した関係にはおぞましささえ覚えるほどだ。
映画はメアリーを傍観者風に描き、やはりアンに正軸を合わせていく。セックスをじらせることで国王の気持ちを捕え、無理やり王妃になる無粋なアン。この辺りのナタリー・ポートマンの演技はいやらしいほど適格な演技だ。王妃でない妹が男子を産んでも国王になれないのを知っているから、まず王妃になるために国王に離婚を迫る。カトリックと離れる国王。名画「わが命尽きるとも」の世界である。
こんなやり取りを見ていると江戸時代の大奥の世界と重複しており、どこでも同じなんだなあとある意味げっそりしてしまう。ただ、日本と違い王妃にだけ跡継ぎの権利が認められ、しかも男子でなくとも女王として国王になれるというのが決定的に違うところである。映画とは関係ないが、現代の日本の皇室の世襲制度を考えてしまう。
映画はブーリン側から見た王室のハナシなので、政治的部分がほとんど語られていないが、(まるで国王が女漁りをしているだけに見えてくる)歴史的なヘンリー8世部分をもう少し陰影を深く描いていれば重厚な人間劇になったろうと惜しまれる。
弟との近親相姦も少々アンのヒステリー症候群めいてしまうほどだ。歴史的にはアンの母親もヘンリー8世の愛人に仕立てられていたらしく、アンの描き方にももう少し掘り下げがあったほうが良かった気もしないではない。でも、アンの話は海外では定番中の定番なんでしょうなあ。切り口をある程度変えて描きたかったのかもしれない。ただ、僕はこの映画を見て、特に心に触れる部分もなくそのまま映像が流れ去った気がする。
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