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[コメント] トウキョウソナタ(2008/日=オランダ=香港)

黒沢清は嫌いだ!
chokobo

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







正直申しまして、これまであまり観ていない黒沢清作品ですが、今回が最もわかりやすくて、これまでの最高傑作として評価したいと思います。

この映画全体を見て、そして家族の崩壊の図式を見て、私たちがこの家族の”薄氷の上”で生きていることを実感します。

それほどリアルな映画だし、黒沢清作品としては、見るものにそれほどストレスを与えない映画だったと思います。

そもそも黒沢清がなんでダメか、というお話になるんですけども、要するに彼は評論家としての作風にこだわりすぎているんですね。明らかに蓮實重彦(元東大総長)の影響だと思います。

”評論家受け”する映画を撮るから、評論家には評価される。難しい言葉を並べる人格障害気味でナルシストな映画評論家達が「なかなか面白い」とか、彼の作品について言うものですから、調子に乗ってさらにわけのわからない映画を作る。一般の鑑賞者は混乱する。これが黒沢清作品のスパイラルですね。彼の作品なんて、これまで全然面白いと思わないわけです。

映画はわかりやすさが大事ですね。

さて、本作では、彼のこれまでの意味のない系譜から逸脱して、とてもわかりやすく、そして親しみやすい内容になっていました。

ところどころに出てくる衝撃的なセリフ。一番いいなぁと思ったのは、長男が「お母さん、離婚しちゃえば。」ですかね。唐突ですけど、このドラマの中心の一点を描いていますね。素晴らしいインパクトのあるセリフ。そしてリムジンバスに乗って敬礼する長男。それを見送る母の恍惚とした表情。これなかなか素晴らしいシーンです。生きてゆくもの(長男)そして死んでゆくもの(母)がバスの向こうとこちらで交差するんですね。

崩壊する家族を淡々と描いていますが、ラストまで一気に語ります。

唐突に泥棒(役所広司)が出てきて、母を拉致しますが、ここだけ黒沢清節でしたね。わけわからん。でもこのシーンも含めて、映画全体は上品に出来上がっていたと思いますね。

映画の数々のシーンで意識されるのが、移動撮影です。これは意識してそうしているんだと思いますが、家族という見えない、動きのない状況を描いているので、移動することによって、個々の心理の変化とか時間の変化を写しています。

父親(香川照之)が作業着姿で、ドロドロになって歩道橋のゴミにまみれてのたうちまわりながら歩くシーンは素晴らしかったですね。香川照之さんは、今、誰よりも役に乗り移れる偉大な俳優ですね。すごいとおもいます。

そしてラスト。ここでやっとソナタが流れますね。いいシーンです。

弟の音大入試のシーンですが、ホールの中で彼がピアノを弾き出すと、窓から風がサーーッと流れて、カーテンが揺れ、春の空気と美しいメロディーが一体になります。彼の奏でるメロディーにホールが次第に大勢の観客で埋まり、耳を澄まします。

それを見ている父親が感極まって涙し、母親はそれを無表情で淡々と見ていますね。

この二人の表情の違いがリアルですね。

母親と父親の子供に対する意識の違い。

そして崩壊寸前の家族の中で生まれた宝石のような瞬間ですね。(ここで夫婦で涙したらしらけるところですが、なかなか見事な演出でした。)

このラストにはとても感動しました。

映画というのは紆余曲折があって、良いところと悪いところが混ざっていても、たったひとつの美しいシーンで人の心を動かすことができるんだと思うんです。この映画では間違いなく、このラストのおかげで映画全体が見事に映画らしくなりましたね。

素晴らしいシーンでした。

最後に、小泉今日子は素晴らしい女優になりました。(というと失礼かもしれませんが・・・)

彼女の演技が際立ったのが『風花』でした。

あの寒い寒い夜の山林で表現するパフォーマンスは見事でした。相米慎二監督の遺作で見事に表現力を強化されましたね。素晴らしい演技。

そもそもアイドルが少し年をとって、どの方向に向かうかは、本人の意思もありますが、なかなか難しい選択ですよね、きっと。

薬師丸ひろ子さんも母親役をされていますが、この映画の小泉今日子さんの母親役も見事だったと思います。称賛します。

2009/05/30

(評価:★5)

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