かなり良作。 ドラマの映画化という枠を大きく越えている。

トリック云々の話以前に、「愛する人のためならば自分が犠牲になってもいい」という明確なテーマを据え、一人の人間の感情を見事に描ききった。この点は見事というしかない。 ドラマも観ていたが、この『容疑者Ｘの献身』をやりたいがためのドラマ化だったのではないかと思いたくなるほど、出来がよい。ドラマ版では過剰な演技／演出が鼻につく場面もあったが、映画版では非常にスムーズ。

堤真一と松雪泰子の存在感、演技力は圧巻で、福山雅治、柴咲コウを完全に食ってしまった。

この手の映画でトリックを語るのは映画を批評する上で特に意味のないこと（映画ではトリック自体がその映画のテーマになっていることは普通ないから）だと思っているのだが、このトリックはよく出来ていると感心した。この映画のテーマをより深みのあるものにしていて、効果的に使われている。

名作と言っても過言ではないが、登山シーンは必然性に欠けるのでないほうがいい。 深読みすれば、「論理的思考という考え方が登山の考え方とリンクする」ということかもしれないが、そうだとするとわかりにくい。遠まわしな隠喩はやめて、単純に「大学のキャンパスを二人で散歩…」でも良かったのではないか。

また論理的思考にスポットをあてすぎたため物理学的思考の描写がなく、「誰も解けない問題を作るのと、その問題を解くのとではどちらが難しいか」に終始してしまったのが残念。ただこの映画に関して言えば、難しくしなかったことは痛恨にはなっていないが。

★４にしようか５にしようか迷ったが、テーマの明確性を買って★５とした。