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[コメント] 大阪ハムレット(2008/日)

すべてが明確になり原因と結果の辻褄が合うことになどに実は大した意味はなく、今、目の前で起こっていることに対してせい一杯、懸命に向き合っていれば自ずと結果はついてくるという、頭でっかちをあざ笑うような、あっけらかんとした生活感の体現が心地よい。
ぽんしゅう

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







ふたつの「死」と、唐突な「生」という人間にとって厳格であるべき出来事が、話しの底辺に置かれている。しかし、しょっぱなのショットで死をとげる父(間寛平)の素性や死因をはじめ、そのほか一切のことは語られない。叔母の遺骨が、大人たちの手を離れ次男(森田直幸)と三男(大塚智哉)という子供に託され故郷へ帰ることになったいきさつも省略される。そして、最後に誕生する赤ん坊の父親はついに断定されないままだ。

この映画は、人が死んだ後と、人が胎内に宿る前の出来事に対しては一切無頓着なのである。昨年、アカデミー外国映画賞を受賞した「死」を敬い悼む映画の対極に位置する、まさに「生」を生きる人々への賛歌だ。お母ちゃん(松坂慶子)と、おっちゃん(岸部一徳)の有無をいわさぬ「生」の推進力により一家は、原因と結果の辻褄を合わせに悩み苦悩している者たちを軽々と飛び越えるのだ。

大阪という街には『夫婦善哉』(55)や『ぼんち』(60)にみられるように、こんな飛躍を日常のこととして容認してしまう素養が備わっている。今を肯定的に、そして貪欲に謳歌するべきであるという大阪的な生活思想を巧みに具現化した、実にポジティブで心地よいホームドラマだ。

(評価:★4)

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