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[コメント] 英国王給仕人に乾杯!(2006/チェコ=スロバキア)

大人だけに赦される甘美な倦怠を晦渋こもった娯楽として仕上げたGOODなドラマ
junojuna

 イジー・メンツェルのニヒルな歴史観、人間観が滋味深く一級の娯楽として結晶した傑作である。ユーモアの忍ばせかたも達観の域にあり、主人公のどこかズレた人生観と眼前に繰られてゆく現実社会とのギャップに生まれるドラマのストーリーテリングは丹念にして小気味よい。また随所に織り込まれるCGワークも衒いなく印象の強い効果覿面な仕事であった。なによりこの映画を成功たらしめているのは役者陣の相貌にある。まず提示される主人公、青年ヤンはその身の丈の低さと童顔で異端な相貌をもち、その主人公ヤンを軸に語られる物語に配された人物群はみな一様に大人の相貌と社会的強者としての立場を明示して、人生の階を上ってゆくヤンとの対比を強調している。この対比には、恋人リーザやエチオピア皇帝との身の丈の低さ、給仕人という職業の傍観者視点に符合する形で寓意の図式がたちあらわれ、ここにチェコ現代史を晦渋こもった眼差しで振り返るメンツェルの巧みな創意が見て取れる。あくまで叙事的な描写で物語るスタイルに易い叙情へ依ることもなく、ある歴史の一幕を甘美な倦怠として抽出した手腕は峻厳な歩みを経た齢の成せる技であろう。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)セント[*] ぽんしゅう[*]

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