コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] ウォレスとグルミット ベーカリー街の悪夢(2008/英)

映画を子供向けに撮らないニック・パークは絶対的に信用できる。現代最高峰のアクション・サスペンス・コメディ・シリーズ『ウォレスとグルミット』はどこまでも「大人」の映画である。展開の濃密さはシリーズでも随一。驚愕のアニメーションが連続し、どこを切っても映画の記憶が溢れ出てくる。
3819695

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







仰々しすぎる装置群や親切にも「BOMB」と書かれた爆弾。細部の面白さを挙げれば際限がないのは以前と同様だし、フーダニット物をやる気などさらさらない作劇がまず上級のユーモアだ。『ペンギンに気をつけろ!』『危機一髪!』『ベーカリー街の悪夢』のどれを最高作とするかは、おそらく観客個々人の好みによってしか決められないだろう(もちろん、映画の「完成度」を度外視するならば、不条理ギャグの横溢する『チーズ・ホリデー』こそが最高だと云うこともできるでしょう)。この映画について、「相変わらず巧すぎる」「それどころか隙のなさは過去作よりも徹底されている」「その割には新味に乏しい」などとして、愛着を抱き難いという向きもあるかもしれない。それはじゅうぶん理解できる意見だが、少なくともこの『ベーカリー街の悪夢』のカメラ・ポジション/アングル選択と照明演出の到達度は過去最高だ。

また、クライマックスにおいてグルミットは八面六臂の活躍をするのではなく、能動的な見せ場は客演のフラフルスに譲っている。こここそがこの映画のすばらしさであり、新機軸であり、このシリーズを続けていくことに対するパークの決意と覚悟の表明だろう。すなわち、いかに予想を裏切りつつ期待を超えるかということへの回答の演出。

敢えて弱い点を挙げれば、「乗り物」か。バンを横滑りさせながら停車させてその勢いでパン配達、なんて無茶苦茶面白いし、それに続く自転車とバンの並走も活劇マニアでなければ不可能な濃厚な活劇演出だが、目玉となるべき乗り物の「気球」演出が前後のシーンよりむしろ力強さやアイデアに欠けている。私たちが感動を覚えたのは模型列車の線路が高速で継がれてゆくこと(『ペンギンに気をつけろ!』)、バイクのサイドカーが飛行機に変貌すること(『危機一髪!』)に見られた荒唐無稽のダイナミズムだったはずだ。

以下、その他の点について箇条書きで記す。

・映画がウォレスとグルミットの写真で始まらないのは少し寂しいか。

・グルミットは完全に二足歩行動物に。四本足で歩いたのは昼のパイエラ邸に忍び込んだワンシーンだけ。四本足もかわいいんですけどね。

・フラフルスかわいい。

・いちばんのお気に入りは帽子をぼんと膨らませるギャグ。どういう原理だ?

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (2 人)DSCH[*] 赤い戦車[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。