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[コメント] ノーボーイズ、ノークライ(2009/日=韓国)

長いものに巻かれるように愚鈍に生きる精神的放浪者を、巨漢を持て余すように飄々と演じるハ・ジョンウが好い。亨(妻夫木聡)との、閑散としたカラオケ大会での熱唱が胸を打つのは、そこに行き場をなくしたすべての若者の孤独が凝縮されているからだ。
ぽんしゅう

亨(妻夫木聡)とヒョング(ハ・ジョンウ)が、閑散としたカラオケ大会の会場で、ドラ声を張り上げて爆発的に熱唱する「アジアの純真」が素晴しい。その陶酔ぶりが、思わず見る者の涙を誘うのは、そこに若者の普遍的な叫びが秘められているからだ。目の前の現実を射抜かんとしてあがく若者が、束の間の連帯を享受する歓喜と、すべての、そしてどの時代にも共通する若者の怒気を代弁している。脚本家渡辺あやのアイディアだろうか。彼女は『メゾンド・ヒミコ』(05)でも、「また逢う日まで」に合わせて、連帯を確認し合うかのように踊りに興じるゲイたちのにぎやかなシーンを準備していた。映画のなかで歌やダンスが発揮する、呪術性や祝祭性の魅力を熟知しているのだろう。

韓国の演出家にありがちな描写の過剰さがなく、キム・ヨンナム監督の地に足の着いた等身大の演出も心地よい。その分、いささか現実ばなれした設定の亨一家のありようが、物語のなかで浮いて見えるという脚本とのミスマッチが気になるのも事実だが。さらに言えば、女たちが少しもの足りない。たとえば、父の安否を気遣う娘(チャ・スヨン)のいささか過剰にも思える心情のありどころや、家族の重荷になることを知りつつ、押さえられない衝動があるに違いない妹(徳永えり)の事情や心境などだ。このあたりの心のニュアンスがいま少し細やかに描かれていれば、家族のありようという主題に厚みが増し、亨とヒョングの苦悩と孤独もさらに重層的に深みを増していただろう。

まあ、いろいろ書きましたが、おおむね満足の一本でした。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)TOMIMORI[*]

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