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[コメント] TAJOMARU(2009/日)

力入れるべきところで全く手を抜き、どうでも良いどころか、改悪に力を入れる。流石中野監督。こういう所は外さない人だな。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 黒澤明監督の傑作『羅生門』リメイク作。リメイクに当たり、本作は『羅生門』の同時並行で物語が展開していく方式をやめ、連続した時間軸で物語を展開させた。それではオリジナルにあった味がなくなりそうなものだが、その中で告白と言う形で事件の多様性を演出している。ストーリーの流れによって、多襄丸と直光のシークェンスは3通りの解釈が出てくるのだが、なるほどこういうやり方もあったか。と思わせるうまい作りとなった。

 ただ、褒められるのはそこまで。告白を流にしたため、最後の告白が真実になってしまい、「藪の中」というシチュエーションが全く活かされてない。何が真実かわからないところが『羅生門』の楽しさだったのに、それをわざわざ分かるようにしてしまったら、シチュエーションの魅力は半減してしまう。

 ストーリー的にも、真実を悟ってしまったら、あとはこうなるしかない物語になってしまい、最後の部分は惰性でしかない。確かにこうした方が物語はすっきりするし、小栗旬ファンにとってもカタルシスは欲しかろうけど、正直どうでもいい部分で時間とりすぎたため、後半30分ははっきりいって退屈極まりなし。義政によってちゃぶ台ひっくり返された時点で物語り終わってくれた方がなんぼか映画としての完成度が上がっていた。  物語で言っても、これは応仁の乱当時のはずなのだが、その事について全部口でしか説明されず、京は無人のまま。当時の貴族の家ってこんなに警備がざるみたいなのか?その辺の説得力もまるでなし。

 後は、演出の悪さも際だってる。

 重要な画面が全部箱庭的な狭い空間で行われ、しかもしゃべっているときは役者のアップ多用。狭い場所だからこそ空間的把握が必要なのに、まるでその意識がない。良い役者を使って、その顔力さえあれば良い。という投げ出しっぷり。全般的に服装が綺麗すぎ。汚い服装まできちんとコーディネートされ、それなりにこざっぱりとして見えるくらい。

 てっきりこの作品、先行して舞台版があるかと思ったくらい。後で検索して映画オリジナルだと知った時は逆にびっくりした。

 なんで最初から映画で作るのだったら、映画的な撮影しないんだ?セットに対して金遣えなかったので、全般的に背景がちゃちになってしまい、それに頼らざるをえなかったんだろうか?いずれにせよ、今の時代に役者だけで見せようなんて無理がある。

 あと、脇を固めるヴェテラン俳優陣が存在感見せてる中、中心となってる小栗旬初めとした若手の存在感が薄い。微妙な心の動きを演技するのは上手いにせよ、本作の場合、極限的な“濃い”演技が求められるのに、そこまで演技を広げることができず。桜丸の田中圭はミスキャストにしか見えないし。特に後半がだれたのは、演技の質によるものじゃなかったか?それを引き出せなかった中野監督の実力不足もマイナス。

 これは映画じゃなくてもうちょっと実力ある人に舞台用に作り直してほしい。かなり迫力ある作品に仕上げられるはず。

(評価:★2)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)sawa:38[*] 水那岐[*]

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