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[コメント] 男と女の不都合な真実(2009/米)

取り立てて大騒ぎするほどではないにせよ、現在の日本でこの品質の喜劇が撮られたならばそれだけで事件になるだろう程度に面白い。くるくると表情が変わり、ことあるごとに小躍りするキャサリン・ハイグルがいい。彼女のアシスタントを演じたブリー・ターナーも同様に喜劇的表情を決めるのが巧い女優で可愛らしい。
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**ネタバレ注意**
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ハイグルの出社を描写したタイトルバック中のカットは、カメラワークもさることながら大勢の人物を同時・多方向に動かした実に複雑な設計の長回しで、思わず吃驚する。技術的難度は相当高いはずだが、映画の敷居を上げるためではなく、あくまでも映画の楽しさ・軽さ・親しみやすさに貢献する求心力の強い長回しであるというのが頼もしい。冒頭からルケティックの職人的野心が窺える。また、そのシーンをハイグルのホイッスルで締めるというのもとても楽しいアイデアだ。

そう、この映画には楽しいアイデアが無数に詰められている。「会話がないときの話題リスト」だとか「クローゼットの中で倒れているハイグル」だとか。ジェラルド・バトラーが出演する番組にハイグルが(何の躊躇もなく!)電話参加してしまうというのも奮っている。そこを筆頭にラストの「気球」(これも楽しいアイデア)に至るまで、会話の面白さもことごとく上々だ。ハイグルがバトラーの指南を受けて理想の男エリック・ウィンターをモノにし、しかしその過程でハイグルとバトラーは惹かれ合う――という『マイ・フェア・レディ』のヴァリエーションでしかない本題も手堅くかつほどよくいいかげんに仕上げられていて嬉しいが、それ以上に上に述べたような細部のアイデアの魅力こそがこの映画の枢要だ。

バトラーと甥っ子の関係性の描き込みが物足りないという向きもあるだろう。確かにそうすることで観客の涙を呼ぶ展開もありえたかもしれない。だが、そうしないことがこの映画の「品」なのだ。下品な台詞が頻出し、あまつさえ「バイブ下着」などという飛び道具まで登場する作品だが、映画の作りには品がある。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)きわ[*] shiono[*]

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