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[コメント] おとうと(1960/日)

市川崑の大正という時代の画作りへのこだわりは、例の「銀残し」だけにとどまるものではなく、美術、衣装、照明、あるいはあのレトロな音楽にいたるまで、もはや偏執的といっていいほどのものが見られ、それはそれで自分には嬉しいものがあった。
ナム太郎

役者陣の演技にしても、おきゃんな、けれども人一倍弟思いの姉を演じた岸恵子はもちろんのこと、グチグチした言い回しが見ていて本当に嫌になる田中絹代の継母や、家族のもめごとなどどこ吹く風の、それでいていつも困り顔の森雅之(どうでもいいシーンだが、電球の明かりを調整しようとして失敗する様がとても楽しく印象に残っている)、また、若かりし頃とはいえ、病に苦しむ姿までもがヤラセではと思わせるほどの、どこか嘘っぽい演技が懐かしい川口浩隊長(といっても分からない人が増えてきたのだろうが)、さらには出演シーンは少ないものの、見るからに嫌味な存在感を示す岸田今日子や、昔を知らない我々世代にはその美貌と美声が衝撃的ですらあった江波杏子の看護婦、さらにさらに何故か1人だけ金髪で、患者である川口を励ます姿が医者としてのあるべき姿に基づいていながら、どこか怪しい雰囲気を漂わす浜村純の院長に至るまで、よくこれだけの役者を集めてきたなと感心してしまうほどで、それぞれの役者の細部にこだわった演技も見ていて飽きるところがない、そういう面でも素晴らしい映画だと思う。特に本来は誰もが美の象徴として撮りたがったであろう岸恵子のようなおフランス女優を、時には汚い言葉をも発せさせながらあのように撮ったのは十分称賛に値することだと私は思うし、話は若干飛躍するかもしれないが、この映画の成功がなければ『悪魔の手毬唄』のあの成功もなかったのではとすら思ってしまった。

決して良い面ばかりではなく、例えば継母が懺悔の思いとともに流す涙を素直に受け取れずに、あの「お母さんよ」という叫びもどこか白々しい思いをもって見てしまった自分ではあるけれども、そういった部分を差し引いても十分に素晴らしい、これは噂に違わぬ秀作だと私は思う。

(評価:★4)

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