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[コメント] おとうと(2009/日)

僕の隣に座った吉永小百合と同年代と思われる女性2人は、やれ「雪が降ってきたなぁ」とか、「あの人、めだかさんやなぁ」とか、観ればわかることをひとつひとつ口に出さずにはいられない人たちだったらしい。そして案の定、泣いたw そういう年代の人たちがメインターゲットの昭和的映画。いや、まったりとしたいい映画でしたよ。(2010.01.21試写会レヴュー)
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**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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昭和顔の役者が演じる昭和の匂いが残る何とも邦画らしい邦画。

完全な身内の恥だが、僕の周囲にも鉄郎のような人はいる。僕の父だった人だ。親戚はおろか、僕たち姉弟にも借金を負わせて、なお、賭事と酒と女から手を引こうとしない。堪忍袋の緒が切れた母や僕を含めた親戚一同は彼と完全に縁を切った。

僕の父は、自分が家庭人に向いていないことに気づかず、数度の再離婚を繰り返したが、鉄郎は十分に自分を知っていて結婚もしなかったし子供も作らなかった。その点において、僕の父よりも数段賢い。

おくりびと』を観た時に、僕もいずれ父を赦さなければいけない日がくるのだろうか、と正直不安に思ったものだが、この国ではたとえ無一文で病院に運ばれようとも医療扶助だの生活保護だのと何かしら面倒を看てくれるようなので、必ずしも僕が父の捜索願なんぞを出す必要はないのだ、と思い直すに至った。あぁ、日本はつくづく恵まれている国だなぁと痛感した。

本作のテーマ『家族という厄介な、でも切っても切れない絆の物語』とは真逆の感想を抱いてしまった僕だが、金の切れ目は縁の切れ目とはよく言うもので、吟子や小春のような身内は、おそらく稀有だと思う。

余談だけど、秋元康が『象の背中』で描いた一部の富裕層が老後に利用する、それはそれは恵まれたホスピスよりも、僕はこっちのホスピスの方が好感が持てた。

とても良質な邦画だと思うが、もう一度観たいとは思わない。なぜだろう。

以下付記:2010.02.07

裕福でない、ものすごく幸福ではない、一般的な家族を描いているから観ていて安心するという評価を周辺で聞いた。

確かに吟子は愛する夫に先立たれ、小春はバツいちという憂き目に遭ってしまったが、この家族、贅沢をしていないだけで「裕福でない」わけではない。

女手ひとつで一人娘を無事に薬学部を卒業させ、豪勢な披露宴を冒頭で催している。世間的に言って経済的に恵まれている人たちだと思う。鉄郎は貧しいというか破滅型なんだろう。

しかし、映画で逆境に立たされた人を見て「安心する」なんて感想を抱いてしまう辺り、日本人はつくづく小市民で総中流志向なんだなぁ、と思った。

(評価:★5)

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