[コメント] マイレージ、マイライフ(2009/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
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主人公のライアンは、自己流の哲学を持ってそれに準じた生き方をしている。かなりのワーカホリック、人に対しては常に上から目線、良い女はとりあえず口説き、年若い女性にはあたかも父親のように接するが、結婚する気は持っていない。この姿はそのままセレブとしてのクルーニーの姿にかぶさっている。それが虚像なのか実像なのかはともかくとして、一般に認められるクルーニーの姿って本当にそのまんまだろう。
これは結局、役そのものがクルーニーに合わせて作られたようなものであり、そんなクルーニーにも寂しさがあるんだ。と思わせるのが本作の楽しさとなっている。
それで、ここまで実像と虚像を似せて良いの?とか作品観てる間はニヤニヤした思考で考えていたのだが、改めて考えてみると、これは別段新しい事じゃない。
それこそ50年代の映画俳優は、こう言う実体と虚像をすりあわせたような役の人が多かった。例えばアメリカン・ドリームの体現者としてのゲイリー・クーパー、アメリカ的古風な父親役としてジョン・ウェイン、渋さと隙を併せ持つハンフリー・ボガート、真面目一徹なグレゴリー・ペックなど、どれも役そのものだけでなく、私生活までそう言う生活をしているのかのように思われていた。当人達も役のイメージを崩さないように私生活でも注意していたし、あの頃は役者と劇中の人物像が密接に結びついていたものだ。
いつしかその辺は崩れていき、役者は「役は役、自分は自分」という姿が当たり前になってしまった(その方が健全ではあるのだが)。そんなハリウッドセレブ達の中で、自覚的に虚像を上手く作り上げている人は、今やクルーニー一人になってしまった感がある。他にも作ってる人はいるのだろうが、それが本当に上手く行ってる人ってほとんどいない。大体スキャンダルでボロが剥がれる。まさしく本作はクルーニー以外には演じることが出来ない。まさにキメ打ち作品。
そう言う立場を前提として作られた本作は、まさしく昔に作品を楽しんで観られる人にとっては懐かしさと心地よさをもって受け入れられるだろう。更に内容も現代に即したハイセンスなミドルエイジ・クライシスを扱っているので、今の人にも楽しめる。お陰で間口がとても広く、多くの人が楽しめる好作に仕上げられた。コメディに偏ることなく、かと言って切実になりすぎることもなく絶妙なバランスも持っているので、幅広い層に楽しんでもらえそう。
後、本作の場合、邦題タイトルがなかなか小憎らしい。原題の『UP IN THE AIR』(これもファーストシーンとラストシーンで効果的に使われているが)を『マイレージ、マイライフ』にしたのは、久々の邦題のヒットかも。サービス受けてるつもりが、いつの間にか逆転してしまい、ポイントを溜めることそのものを目的にしてしまいがちな人の心理を上手く突いた題だし、こっちの方がむしろ作品の内容的にも合ってる感じ。ちょっと身につまされるところもあるんだけどね。全然使っておらず溜まりっぱなしのあれこれのカードとか…
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