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[コメント] キルショット(2008/米)

デガスにロークは絶妙のキャスティングも、色気を消し切れていないのが気になった。デガスは、持たざる男だらかだ。悪くない映画化だが、原作の奥行きには及ばず。原作の観点から言えば、映画が付加した離婚間際という設定は全くの余計。
kiona

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







原作では、夫婦仲は良好で、彼女が良妻だからこそ、ラストのカーメンVSデガスの一騎打ちが際立っていた。

アーマンド・デガスは、悪党だが、レナードらしい何とも味わい深い人物で、臆面もない見事なド低脳生物・リッチーとは対照的に、哀愁さえまとっている。

そんな彼が、原作のラストでカーメンと一騎打ちとなったときは、こうだった。

映画同様、デガスは、カーメンの前で、リッチーのドキュンぶりに愛想を尽かし、撃ち殺す。そして、リッチーの遺体にカーメンの夫・ウェインのジャンパーをかぶせる。

このジャンパーが肝で、それは鉄骨工のウェインが長年仕事で着てきた「鉄骨工がアメリカを作る」と刺繍された、いわば職人である夫の誇りとも言えるジャンパーだった。

カーメンは、パンツ一丁にされながらもデガスの隙をついて(この隙も、デガスの女に対する甘さに起因している)、猟銃を突きつけるのだが、そういった余談のゆるさない状況下でリッチーの死体に近づいて行く。

デガスは、そんなことをする彼女の意図がわからない。

そんな彼の目の前で、カーメンは、夫のジャンパーを剥ぎ取る。愛する夫の誇りとも言えるジャンパーが、クソ悪党の血で汚されるのが許せなかったのだ。

それを見たデガスは、彼女の心情を理解し、内心で賞賛する――なんてこった、こいつは女の鑑だ。妻にするなら、こういう女だと。

そうして彼は彼女に惚れながら彼女に撃たれて死んで行く。そんな心境を彼女につゆ理解されることなく。

ここには、やくざな人生を歩んでこざるをえなかった持たざる男の誰にも届かぬ純情と哀切があり、小説はなんとも言えない余韻のうちに終る。

けっこう忠実な映画化と見えただけに、その部分がまったく飛んでしまっていたのは、大変残念だった。

(評価:★3)

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