[コメント] ウディ・アレンの夢と犯罪(2007/米=英=仏)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
本作は監督作に専念していて本人は登場していないが、やはり根底にアレンらしい味わいが横たわっている。
本作の場合、コメディ色で覆うことによって、モンタージュ的な意味で犯罪の重さというものを伝えようとしたかのようだ。
一人の命を奪う。これは当然犯罪になるが、これを本当の意味で重く真っ正面から受け止める映画は作りにくい。作りが真面目になりすぎると、批評家受けは良いだろうけど一般のハコではかけにくくなるし、かと言ってアクションとかにすると、命を奪うという事自体が軽くなりすぎる。そう言う意味ではコメディというのは匙加減としては最適なのかもしれない。人の命を奪うことの深刻さと、端から観ていて当人の無様さを笑う心理は不思議と相性が良い。大声出して笑う訳じゃなく、苦笑いしながら観ていて、しっかり心に残る。そう言った作りにすることも出来るのだ。
そう言った意味ではアレンは本当に見事なコメディの作り手。笑いにくるみつつ、重いものを心に放り込んでくれる。
本作のコメディ部分として、やっぱりあの兄弟の描写があるだろう。二人とももう40を前にしているというのに、子供のように仲が良く、しかも観ている夢もやってることも思春期の頃と大して変わってない。一言で言えば「子供っぽい」のだが、それが上手く機能していた。特にファレル演じるテリーは、挑発を受けるとついついムキになってしまい、そしてその後で激しく落ち込む。と言う、子供そのものだったりする辺りが、とても痛々しくて、それが笑える。こう言ったシニカルな笑いがイギリス風と言う奴かな?冷静な男の役を演じることが多いファレルにこれを演じさせたのも慧眼。情けない役がこんなに似合う人だとは、初めて気付かされた。大人になれない子供…こう言うのをオトナと言うのだろうけど、それ自体がコメディそのものだ。
ところで、これを観ていると、「何故人を殺してはいけないのか」という質問への的確な答えの一つにも思えてくる。人を殺すと言う事は外的な意味で罰せられるのではなく、心の中の問題に関わってくるからなのだな。そう言う疑問を素直に言ってくる子供には一旦この作品をみせてやりたいもんだ。コメディだからこそ心に入ってくる真実というのもあるのだ。
残念なのは本作が製作されたのが2007年だというのに、2010年になるまで日本では公開さえされなかったという事実か(しかも都内でも一箇所しか上映館が無かった)。こう言う作品こそ広く見せねばならないものなのに。
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (2 人) | [*] [*] |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。