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[コメント] 運命のボタン(2009/米)

仕掛け部分の脚本は浅はかで不遜なのだが、前半のドラマ演出の水準は高い。殊に在宅時の老け顔キャメロン・ディアスの芝居は新境地だ。ナイーブな私小説的世界観に付き合うだけの度量を持ち合わせた観客ならば、突っ込みも含めてそこそこに楽しめる。
shiono

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ボタンを押すまでの前半はサスペンスとしてよくまとまっている。ディアスの足の障害や、ジェームズ・マーズデンがNASAの職員であるという人物背景の唐突な見せ方がいい。だが案じたとおり、見ていておもしろいのは仕掛けられたほうのリアクションであり、仕掛ける側の手の内をさらけ出していく後半部分になると、そうじゃないだろ、という理性の声がどんどん膨らんできてしまう。

振り返るに、そもそもボタンを押すか押さないという選択がフェアではない。後にフランク・ランジェラが独白する彼の意図を要約すると、これは倫理観を試すテストであるようだ。だが、ボタンを押したときの条件だけが提示されたら、誰もが好奇心を刺激されるだろう。格別、欲の深い人間でなくても、ついつい押してみたくなるボタンという存在がまやかしであり、初めからこれは押されることを待っているアイテムとしてそこにあるのだ。

物語の時代背景と、『フロスト×ニクソン』でのランジェラの役どころを考え合わせれば、あのボタンは核ミサイルの発射装置のメタファーであるはずだ。アタッシュケースの100万ドルを加味して現代的に翻訳すると、他人を犠牲にするのも厭わない投機ビジネスのチャンスに乗るか反るか、という誘惑にも見える。

だが、そのベネフィットに対するリスクの在りようが漠然としか説明されていなかったのに、結果的には「見ず知らずの人間の死」ばかりではなく、我が子があのような酷い犠牲を負うという非論理性には頭を抱えるしかない。この図式からは、人間としての本質的な愚かさや虚しさを感じることができないから、マーズデンがディアスを射殺する葛藤のドラマが白々しく思えてしまう。

とはいえ、リチャード・ケリー監督の演出力には独特のものがあるので、オリジナル脚本への拘りを捨て、アメコミヒーローものなどを撮らせたりしたら、意外と面白いものができるかもしれない。

(評価:★3)

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